アスペクト・イン・ジャズの第一話は、ジャズのはじまりの物語です。
この時期の音源に関しては、CDではいろいろな編集盤があるので、年代と曲名を頼りに名演を探してください。
第一回目の放送では、ジャズ以前の話として、ジャズを成立させた様々な要素に関して、油井先生の説明とともに、いろいろな音源が紹介されていました。
ヨアヒム・ベーレントの著作などでも、ジャズ成立の要件として、当時の時代背景とともに述べられているのは・・・・
①アフリカ音楽の痕跡(労働歌や物売りの声=フィールド・ハラー)
②黒人教会音楽
③西洋音楽の影響を受け成立したラグタイムピアノ
という3つの要素でした。番組でもそれぞれの要素に関する音源が紹介されています。このような音源に関しては、フォークウェイのジャズの第一巻や、リバーサイドのジャズの歴史が参考になります。番組で紹介されたチャ―ストンの物売りの声と、スコット・ジョプリン、ジェイムス・スコットのラグタイムピアノロールはリバーサイド盤に収録されています。
また、モダンジャズの例として、黒人教会音楽の影響を受けた例として、チャールス・ミンガスの「水曜の夜の祈りの集い」と、労働歌の影響で生まれた例として、ナット・アダレイの「ワークソング」が紹介されていました。
油井正一さんのジャズの歴史書は二種類あります。
それぞれ版を重ねて、装丁デザインも変わってますが、一つは「ジャズの歴史物語」
左記の三種は全部同じ内容です。
私が愛読したのは、もちろん一番下の赤い装丁の最初のヤツですね・・・
今日に於いても、最も読みやすいジャズの通史ではないかと思います。
「ジャズの歴史物語」より前に出版された最初のジャズ史著作があります。
それは東京創元社から出された「ジャズの歴史」。それはその後改版されて文庫になりました。
版ごとに若干の変更はあるかもしれませんが、基本は同一の書籍です。
「ジャズの歴史物語」より、さらにトラディショナルジャズのエピソードが多く収録されています。
第二回目の放送は、ジャズ史上に於ける最初期の巨人の一人であるジェリー・ロール・モートンの物語です。
初期の巨人にはキング・オリバーなどもいますが、レコードに残っている作品で評価するなら、ルイ・アームストロング以前の最大の巨人と言えましょう。
ジェリー・ロール・モートンのお話を油井先生の名解説で・・・
ジェリー・ロール・モートンはクリオール(*下記注1)に生まれ、幼少の頃西洋音楽の教育を受けましたが、家が没落し、ストーリービル(*下記注2)でピアノを演奏して糊口をしのぐ身になったという経歴を持っております。
その後各地を転々としながらばくち打ちや売春婦のヒモなどやくざな稼業もしながらバンドリーダーとして成功し、たくさんお金を稼いで前歯にダイヤモンドを入れて自慢していたとか・・・
その人気のおかげで数々の傑作をレコードに残してくれました。
*1:白人と黒人の混血で、南部では白人に準ずる境遇を得ていたが、奴隷解放後に黒人同様の差別の対象になり落ちぶれた階級のこと。ベーレントによれば、初期のジャズを形成した要因の一つに、このクリオールの没落をあげており、油井正一氏もその点を強く言及されております。このジェリー・ロール・モートンの音楽は、ベーレントの説を証明する好個の事例でありましょう。
*2:ニューオリンズの繁栄を支えた遊郭地帯。第一次大戦勃発時に風紀上の理由から閉鎖され、多くのジャズメンが職を失い、シカゴなどに移動し、ジャズ拡散の契機となりました。
油井先生の選曲は、そのレッド・ホット・ペッパーズの名演を中心に、彼のラグタイムピアノの進化形といえるソロピアノや、彼の作曲作品をアレンジした後年のスイング作品との比較(ベニー・グッドマンのキング・ポーター・ストンプとライオネル・ハンプトンのシュー・シャイナーズ・ドラッグ)などを取り上げており、このような番組でしか実現不可能の聴き比べができ、たいへん面白いものでした。
それにしても1926年は大正15年で、12月25日から昭和元年になるという年。この時期にこのような前衛的な作品を作ったモートンさんはとてつもない天才ですね。
ブラック・ボトム・ストンプとドクター・ジャズという傑作に触れ、私はトラディショナルジャズの魅力にいっぺんに取りつかれていきました。
ジェリー・ロール・モートンは、1920年代終り頃には人気が傾き、1930年代の世の中がスイング全盛期でジャズが大衆的な人気を得た時代の恩恵をほとんど受けずに、1941年に55歳で寂しくこの世を去りました。
ニューオリンズリバイバルがブームになったのはわずか二年後の1943年からと言われています。もう少し長生きしていれば、彼はバンク・ジョンソン以上のヒーローになったかもしれません。
第3回は初期のニューオリンズジャズの形態であるブラスバンドからジャズバンドへの歩みを紹介しています。
19世紀末から20世紀初頭にジャズと思われる音楽がニューオリンズで始まったと言われています。
しかし、その当時の音源は残っておりませんので、当時の姿をとどめているであろうヤングタキシードブラスバンドによるニューオリンズのブラスバンドの演奏を番組の前半で紹介しています。
また後半では、史上初のジャズ録音といわれているオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドの演奏や、ニューオリンズリバイバルの立役者であるジョージルイスがブラスバンド編成で演奏した作品などが紹介されました。
アトランティックに残されたニューオリンズの街頭録音によるブラスバンド集です。
ザ・ヤング・タキシード・ブラスバンドという名前がついております。
ブラスバンドは、死者を伴って墓場へ向かう時は荘厳で悲痛に満ちた宗教曲を演じます。
しかし帰りには一転してスィングするジャズを演じるという独特の黒人の葬儀の様子が再現されています。
雑誌「ライフ」が、ジャズの期限を画集にまとめようと画家を伴って取材に赴いた際に、たまたま本当の黒人葬儀の行列に遭遇し、後日その音楽を再演させたものということです。
ジャケットの絵もその時の画家が描いたものです。
ジャズ創世期に近い姿をそのままとどめた演奏として、感動的な重みがあります。
1917年の初めてのジャズ録音(と、言うより初めてジャズという名称を使った録音)とされるオリジナル・ディキシーランド・ジャズバンドの演奏を収録した歴史的な録音集。
当時100万枚の大ヒットとなったオリジナル・ディキシーランド・ジャズバンドの演奏は、馬のいななきなどを取り入れた今日聴いても面白味のあるユニークな演奏で、ヒットしたことも頷けます。
サッチモやジェリーロールモートンの代表作も収録されているので、ジャズの歴史入門におすすめのCDです。
ニューオリンズ リバイバルの立役者であるジョージルイスが、ブラスバンド編成で録音した作品。
バンジョーのローレンスマレロが大太鼓、ドラムのベイビードッズが小太鼓というように、ブラスバンドそのままの編成でジャズを演奏しています。