Horace Silver リーダー作3 1970年から1978年まで

ジャズロックの台頭だけでなく、その後スピリチュアルと呼ばれるような音楽が好まれるようになり、シルバーはその先頭に立っていきます。ただし、そのことは従来からのジャズファンが離れていくことにもなりました。

シルバーは、ライブを中心に従来からの4ビートも演奏し、スタジオでは新たな挑戦を進めることで、なんとか人気を保った時期といえると思います。



THAT HEALIN' FEELIN' : The United States Of Mind Phase 1 / Horace Silver

1970.4.8:①-⑤

1970.6.18:⑥-⑨

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★

Horace Silver(p,el-p), Randy Brecker(tp,flh),

①-⑤:George Coleman(ts), Bob Cranshaw(el-b), Mickey Roker(ds), Andy Bey(vo:2-5)

⑥-⑨:Houston Person(ts), Jimmy Lewis(el-b), Idris Muhammad(ds), Gail Nelson(vo:6), Jackie Verdell(vo:7-9)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・マインド(人心連合)三部作の1作目。ソウルフルなボーカルが導入されるようになる。

ここから3枚がユナイテッド・ステイツ・オブ・マインド三部作となっている。意味はよくわからないが、精神性の高い何かなのだろう。世間では「人心連合三部作」と呼ばれているらしい。スピリチュアル・ジャズというものかもしれないが、その割に軽い感じの音楽だ。三部作となったのは、どうもCD化の時点で後付けらしい。本作はジャケがインドかイスラムかわからないが西アジア的衣装のシルバーになっただけでなく、タイトル曲①のみインストで、②以降の前半はアンディ・ベイのボーカルが入る。ベイのボーカルは次作に比べればジャズっぽい歌い方だが私にはジャズとは思えない。⑤ピースはシルバーの名曲に歌詞がついたバージョン。後半は別のボーカル(ゲイル・ネルソン1曲、ジャッキー・ヴァーデル3曲)であまりジャズっぽくない。曲はほぼ8ビートだ。前・後半でメンバーが変わり、ランディ・ブレッカーは共通だが、テナーはジョージ・コールマンとヒューストン・パーソンで、管のフロントが歌謡曲の間奏的な位置付けになってしまっている。ベースはボブ・クランショウとジミー・ルイスでいずれもエレベだ。ドラムはミッキー・ローカーとアイドリス・ムハマッド。ピアノも70年代らしくエレピ曲が増えている。(hand)



TOTAL RESPONSE : The United States Of Mind Phase 2 / Horace Silver

1970.11.15(1,2,6,9)

1971.1.29(3-5,7,8)

Blue Note

おすすめ度

hand      ★

Horace Silver(el-p), Cecil Bridgewater(tp,flh), Harold Vick(ts), Richie Resnicoff(gr), Bob Cranshaw(el-b), Mickey Roker(ds), Salome Bey(vo:1,2,5-7,9), Andy Bey(vo:3,4,8)

三部作の2作目。音楽性がガラリと変わり、ワウワウギターやファンクなエレベを導入。ボーカルを全面にフィーチャー

三部作の2枚目。遂に音楽性がガラリと変わる。ワウワウギターやファンクなエレベに加え、ボーカルが全曲にフィーチャーされるようになる。アンディ・ベイと姉のサロメ・ベイのどちらかが入る。ギターはリッチー・レスニコフ(知らない人)、エレベはボブ・クランショウ、ドラムはミッキー・ローカーで、シルバーは全曲エレピだ。トランペットはセシル・ブリッジウォーター、テナーはハロルド・ヴィックだ。この手の音楽になるとリズム隊の重要性が高まり、管は単なるホーンセクションでソロもない。ソロがあるのは、シルバーのエレピとギター少々だけだ。アンディ・ベイのボーカルはウィキで調べるとジャズボーカルとなっているが私にはソウルボーカルに聞こえてしまう。ピアノも全面エレピになりまさに70年代だ。全曲歌入りで、シルバーがインストの力を信じなくなったのかと思ってしまう。区別がつかないが、クラブ系、フリーソウル系、レアグルーヴ系、ラウンジ系、アシッドジャズ系の名盤として90年代後半に人気が出たらしい。東京JAZZでやっている音楽を全てをジャズとは思えない偏狭な私には無理な音楽だ。(hand)



ALL : The United States Of Mind Phase 3 / Horace Silver

1972.1.17 & 2.14

Blue Note

おすすめ度

hand      ★

Horace Silver(el-p,vo), Cecil Bridgewater(tp,flh), Harold Vick(ts), Richie Resnicoff(gr), Bob Cranshaw(el-b), Mickey Roker(ds), Salome Bey(vo:1,3, 4,9-10), Andy Bey(vo:1,2,7-10), Gail Nelson(vo:1,5,9-10)

三部作の3作目。前作の流れを引き継ぐが、器楽盤ではなく歌物盤となる。

三部作の3枚目。「オール」というすごいタイトルだが、何の全てなのかはわからない。メンバーは、前作とほぼ同じだが、前前作参加のゲイル・ネルソンもボーカルに加え、1曲ずつではなく同時に複数人入っている。シルバーも歌っている。雰囲気はかなり前作「トータル・レスポンス」と似ているが、完全な歌物盤となり、エレピとギターのソロもほとんどなく、ソロどころか管の出番自体がかなり少ない。歌物オールという意味なのだろうか?(hand)



In The Purst of The 27TH Man / Horace Silver  27番目の男(イン・パースート・オブ・ザ 27th マン)/ホレス シルバー

1972.10.6:②④⑥⑦

1972.11.10:①③⑤

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★★

しげどん  ★★★☆

Horace Silver(p), Randy Brecker(tp,flh:1,3,5), Michael Brecker(ts:1,3,5), David Friedman(vib:2,4,6,7) Bob Cranshaw(el-b), Mickey Roker(ds)

ブレッカー兄弟の参加でジャズの器楽盤に戻る。バイブのデビット・フリードマン参加曲とのミックスで、この時期に珍しくジャズ度が高い盤

シルバーのブルーノート27作目ということでついたタイトルらしい。前作までの歌物&精神性の三部作が終わり、インストに戻っている。ランディとマイケルのブレッカー・ブラザーズとバイブのデビット・フリードマンをフロントにした曲が交互に入っている。リズムはクランショウのエレベとローカーのドラムで、シルバーはアコースティックだ。安心はできないが、少しホッとする。ボーカルはボーカル盤に任せて、インスト盤はインストで聞きたい。ブレッカー兄弟は特に好みではないが、私にとって悪夢の三部作の後の至高のジャズ作のように聞こえてしまう。フリードマンのバイブもとてもジャジーに聞こえる。シルバーのアコピもエレガントに思える。タイトル曲⑦はナットビルにリズムパターンの似たカッコよさがある。若くして亡くなったマイケル・ブレッカーは、ビバップを感じない奏法なので、ハンコックらとの共演もあるが、どうしてもフュージョンに聞こえてしまう。フュージョンサックスとしてはいいが、ジャズ度は低いテナーだと思っている。(hand)

27番目の男の追跡というとストイックなイメージだが、内容は平易な親しみやすいジャズ。でもこれがホレス・シルバーの真骨頂で、とにかく楽しい旋律が続き、ややイージーリスニング的な印象もある。バイブラフォンのカルテット演奏もシルバー作品としては珍しく、そこも聞き流しやすい要素かもしれない。あまり注目されていない作品だが、意外と一般受けしそうな要素をもっている作品だと思う。(しげどん)



THE 1973 CONCERTS / Horace Silver

1973.3.27:Disc1①-③

4.14:Disc1④⑤,Disc2①

7.3:Disc2②-⑧

7.15:Disc2⑧

Further

おすすめ度

hand      ★★★★

Horace Silver(p), Randy Brecker(tp), Michael Brecker(ts), Will Lee(el-b), Alvin Queen(ds)

「27番目の男」の流れを汲む比較的ジャジーな2枚組海賊盤

73年に行われた、3月ボストン、4月フィンランド、7月ニューヨーク、イタリアの4か所のライブの入った2枚組海賊盤。音はまずまず。メンバーは共通でブレッカー兄弟、ウィル・リーのエレベ、アルビン・クイーンのドラム。盤の特徴は、最新盤「イン・パースート・オブ・ザ・27th・マン」と「トータル・レスポンス」からの曲と旧曲ソング・フォー・マイ・ファーザーが入っていて、同一曲が多いこと。8ビートばかりなので純ジャズとは思えないが、ピアノがアコースティックで、ランディ・ブレッカーのソロがジャジーなのはいい。マイケルはややフュージョンを感じるが、激しさは好感ではある。(hand)



SILVER 'N BRASS / Horace Silver

1975.1.10 & 17

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★

Horace Silver(p), Tom Harrell(tp), Bob Berg(ts), Ron Carter(b:1-4), Bob Cranshaw(b:5,6), Al Foster(ds:1-4), Bernard Purdie(ds:5,6),

Oscar Brashear, Bobby Bryant (tp,flh), Vincent DeRosa(french horn), 

Frank Rosolino(tb), Maurice Spears(b-tb), Jerome Richardson(as,ss,fl), 

Buddy Collette(as,fl), Wade Marcus(arr) 

「シルバー’ン」五部作の1作目。テーマは金管で、ブラスロックを感じる内容

ブルーノート最後となる「シルバー’ン」五部作が始まる。1枚目は金管がテーマだ。クインテットの演奏に6本の管をかぶせている。クインテットは、トム・ハレル、ボブ・バーグ、ロン・カーター、アル・フォスター(一部、バーナード・パーディ)と重量級。6管もオスカー・ブラッシャー、フランク・ロソリーノ、ジェローム・リチャードソン、バディ・コレットなど豪華だ。重量級の作品を期待して聞くと、ジャズと言うよりもそれほど重量感のないブラスロックだと思う。ロンのベースがやたらフットワークよく動くのが軽く感じてしまう原因かもしれない。バーグのテナーは、前作のマイケル・ブレッカーと路線が近く、私にはフュージョン系に聞こえてしまう。シルバー盤にしては珍しくシルバーがあまり目立たないと思う。(hand)



SILVER 'N WOOD / Horace Silver

1975.11.7

1976.1.2 & 3

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★

Horace Silver(p,arr), Tom Harrell(tp), Bob Berg(ts), Ron Carter(b), Al Foster(ds), 

Buddy Collette, Fred Jackson,Jr.(fl,piccolo), Jerome Richardson(ss), Lanny Morgan(as), Jack Nimitz(bs,fl), Bill Green(b-s,fl), Garnett Brown(b:1-4), Frank Rosolino(tb:5-8), Wade Marcus(cond)

「シルバー’ン」五部作の2作目。テーマは木管で、やはり雰囲気はブラスロック

五部作の2枚目は木管がテーマで、前作とほぼメンバーは変わらないがかぶせる7管にトランペットを入れずサックスを強化している。前作からバックのトランペットはいなくなったが、雰囲気はやはりブラスロックだ。73年にバディ・リッチがビッグバンドでシルバーのナットビルを録音していて、それはそれでカッコいいのだが、シルバーが逆影響を受けているような演奏に思えてしまう。(hand)



SILVER 'N VOICES / Horace Silver

1976.9.24 & 10.1,9,22

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★☆

Horace Silver(p,arr), Tom Harrell(tp), Bob Berg(ts), Ron Carter(b), Al Foster(ds),

Monica Mancini, Avery Sommers, Joyce Copeland, Richard Page, Dale Verdugo(vo), Alan Copeland(vo,musical director)

「シルバー’ン」五部作の3作目。テーマはボイスで、セルメンを感じる内容

五部作の3枚目は声がテーマで、同じクインテットに5声のコーラスを加えている。アンディ・ベイのような強烈な声ではなく、セルメンのような混声コーラスがテーマを歌うだけなので、器楽演奏を楽しみたい私には歌があまり気にならず割といい印象だ。シルバーだけでなく、ハレル、バーグも各曲できちんとソロ空間が確保されているのもいい。ただ、ジャズというよりもどうしてもポップな印象になってしまう。ブルーノートから離れた後のシルヴェトにつながるような路線だと思う。(hand)



JUNE 1977 / Horace Silver

1977.6.28

Promising Music

おすすめ度

hand      ★★★☆

Horace Silver(p), Tom Harrell(tp,flh), Larry Schneider(ts), Chip Jackson(b), Eddie Gladden(ds),

「シルバー’ン」五部作の間の海賊ライブ。ジャズ度は高い。

ブルーノートの「シルバー’ン」五部作の間の海賊ライブ。想像はしていたが、スタジオではコーラスを入れたり色々やっていたシルバーもライブでは普通のインストのクインテット演奏をしていた、ということに安心する。この盤は、最初のピアノイントロがエバンス?!と思うくらい、シルバーがピアニスティックなプレイを聞かせる。やはりライブは面白い発見がある。エレベで8ビートもあるが、基本はジャズなので好感が持てる。トム・ハレルのトランペットが割といい。テナーは五部作4枚目に先立ちラリー・シュナイダーに変わっている。シュナイダーは、フュージョンサックスだったらカッコいいと思うが、ジャズサックスとしてはあまり私好みではない。ただ、盤全体がジャズらしいので許してしまう。(hand)



SILVER 'N PERCUSSION / Horace Silver

1977.11.12,17,25,30

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★

Horace Silver(p,arr), Tom Harrell(tp), Larry Schneider(ts), Ron Carter(b), Al Foster(ds), 

Babatunde Olatunji(perc), Ladji Camara(perc:1–3), Omar Clay(perc:4–6), 

Fred Hardy, Lee C. Thomas, Fred Gripper, Bob Barnes, Bobby Clay, Peter Oliver Norman(vo), Chapman Roberts(musical direction,vo)

「シルバー’ン」五部作の4作目。テーマはパーカッションだが打楽器の強烈さはなく、ボイスが前作に引き続き活躍

五部作の4枚目は打楽器がテーマ。クインテットのテナーがラリー・シュナイダーになっている。タイトルのパーカッションは3人(同時には2人)で意外と少なく、それほど強烈ではない。ラテン、ブラジルというよりもアフリカの感じか。コーラスが7人も入っている。はっきりとした歌詞を歌うというよりも念仏的なボイスで、コルトレーンの「至上の愛」を思い出す曲もある。シュナイダーのテナーは、ビバップを感じないマイケル・ブレッカー的な奏法で、ジャズ度が低く感じてしまう。ビル・エバンスの「アフィニティ」にも参加していたが、せかっくのトゥーツ・シールマンスのハーモニカを邪魔してる感じで、あまりいいと思えなかった。(hand)



SILVER 'N STRINGS PLAY THE MUSIC OF SPHERES / Horace Silver

1978.11.3 & 10

1979.10.26 & 11.2

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★

Horace Silver(p,arr), Tom Harrell(tp), Larry Schneider(ts), Ron Carter(b), Al Foster(ds),

Gregory Hines(vo:1-3), Brenda Alford, Carol Lynn Maillard, Chapman Roberts(vo:10-14),

Aaron Rosand, Marvin Morganstern, Paul Winter, Lewis Eley, Peter Dimitriades, Louann Montesi, Harry Glickman(vln),

Harold Coletta, Harry Zaratzian, Seymour Berman, Theodore Israel(viola),

Seymour Barab, Jonathan Abramowitz(cello),Gene Bianco(harp),

Wade Marcus(arr,cond), Dale Oehler(arr),  Guy Lumia(concertmaster)

「シルバー’ン」五部作の5作目。テーマはストリングス。カジュアルなビッグバンド的な内容

五部作の5枚目にしてブルーノートの最終作のテーマはストリングス。とは言ってもクインテットにストリングスだけではなく、ボーカルやコーラスも入った組曲作品。CDは1枚だがアナログは2枚組。壮大な組曲かと思って聞くと、それほど大仰ではなく、ボーカルもポップでカジュアルなビッグバンド作品という感じか。私は元々ストリングスはあまり得意ではないが。思ったほど強調されていないので、聞きやすい。(hand)