Miles Davis マイルス デイビス おすすめCD名盤 & 全リーダー作 レビュー

常に変貌を続け、ジャズの歴史を牽引してきたモダンジャズの帝王

モダンジャズの帝王と言われるマイルス・デイビス(19261991)は、その生涯=モダンジャズの歴史と言える超が何個ついてもおかしくない巨匠です。全部聞きを旨とする新ジ談にとっても巨匠過ぎて(枚数が多過ぎて)後回しになっていました。今回やっと、談義の会4年目にして、記念すべき第20回のアーチストとして登場することとなりました。とはいっても、ロック好きのショーン氏も含めて3人とも後期のエレクトリック・マイルスはこれまで敬遠してきたというのが正直なところです。このため恒例のベスト5は、やはり馴染みがあり、これまで聞いてきた前期のアコースティック・マイルスから選定し、後期のエレクトリック・マイルスについてはhand氏の個人研究を中心としました。


予想どおりの強さであった「カインド・オブ・ブルー」



マイルスの前期・アコースティック期に限って選考したが、その前期だけでも3人の好みは違い、各人が推薦する盤が必ずしも上位に入ることなく、選外となるものもあった。そのような中でもやはり圧倒的な強さを見せたのは「カインド・オブ・ブルー」であった。そして意外性のある結果となったのが、モンクとのセッションに人気が集まり「モダン・ジャズ・ジャイアンツ」が堂々の2位で、同じセッションを含む人気盤「バグス・グルーブ」が3位となったことだ。4位、5位は人気盤であるキャノンボール名義だが「サムシン・エルス」と「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」が入った。人気のマラソンセッションからはベスト5が出ず、しげどん推薦の「リラクシン」が次点にとどまり、ショーン氏推薦の「フォア・アンド・モア」、hand推薦の「マイ・ファニー・バレンタイン」は選外となった。(hand)


おすすめ盤 1位:Kind Of Blue/Miles Davis カインド・オブ・ブルー/マイルス・デイビス

1959年3月2日,4月6日  Columbia

おすすめ度

hand     ★★★★★

しげどん  ★★★★★

ショーン  ★★★★★

Miles Davis(tp), Cannonball Adderley(as), John Coltrane(ts), Wynton Kelly,  Bill Evans(p), Paul Chambers(b), Jimmy Cobb(ds)

今も売れ続ける史上最高といわれる名盤

私としてはジャズ史上の最高名盤だと思っている。初めて聞いたときは難解で理解できなかったが、ジャズを聞き始めてしばらくしてから聞いたときに、衝撃的に素晴らしさが伝わってきた。今は、あまりに大事な盤なので基本的に年1回しか聞かないようにしている。それでも時折、耳の中で音が鳴り始めてしまう。それくらいすごい盤だ。エバンスとキャノンボール脱退後のメンバー、マイルス、コルトレーン、ケリー、チェンバース、コブというメンバーで1年後に欧州ツアーを行うが、「カインド」の面影は全くない演奏となっている。この録音が、進化する多種多才なメンバーにより一分の隙もない作品となったのは、まさに最高の一瞬を天才マイルスが切り取ったということなのだと思う。(hand)

高校生の頃初めて聴いたのは図書館で借りた日本盤で「トランペット・ブルー」というタイトルのペラジャケだった。当時は有名なマイルス作品だと思って期待してカセットに録音したが、曲がいいとは思えなく、あまり深く聴きこまなかった。今では純粋に良い作品、好きな作品と言い切れるんだが、どこがどう良いのか?何十年もジャズを聴いてきても、この作品の価値を理解した感じがしない難しい気持ちがある。曲がいいとか歌心があるといった説明とは一切無縁の緊張感。裏面ライナーでビル・エヴァンスが言っている墨絵の世界のような感じ取り方が一番いいのかもしれない。でも、この後ジャズはどんどん無機質になっていき、私にとってはまったく聴く気にならない音楽になっていく出発点の作品でもある。かって粟村政明さんはビッチズブリューでジャズは終わったと言ったが、私にはカインド・オブ・ブルーで愛するジャズは終わってしまったのだ。モード的なジャズでの愛聴盤はいまだに一枚もないのだから。(しげどん)

静謐なベースラインからのスタート。最初に聴いた時にワクワクした感覚が蘇る。そして期待通りの演奏。キャノンボール、コルトレーン、ビル・エヴァンスという最高のメンバーとの熱演はいつの時代でも色褪せることはないだろう。キャノンボールの澱みない音の流れにコルトレーンの力強く芯に重みのあるテナー、エヴァンスの音階の美しさが加わる。そこにマイルスの情緒溢れるトランペットの響きで、芸術的に美しいJAZZが仕上がった。超必聴盤だ。(ショーン)



おすすめ盤 2位:Miles Davis And The Modern Jazz Giants マイルス・デイビス・アンド・モダン・ジャズ・ジャイアンツ

1954年12月24日

1956年10月26日

Prestige

おすすめ度

hand     ★★★★★

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★★

1954年12月24日:Miles Davis(tp), Milt Jackson(vib), Thelonious Monk(p), Percy Heath(b), Kenny Clarke(ds)

1956年10月26日:Miles Davis(tp), John Coltrane(ts), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)

「バグス・グルーブ」と同日録音のマイルス、モンク、ミルトという3巨人の素晴らしい邂逅の記録

ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンの美しい音色とマイルスの共演に、僅かな音で個性をめちゃくちゃ発揮したセロニアス・モンク。このセッションにモンクが参加したことで、マイルスの演奏は緻密かつ大胆なフレーズの連発で自身の存在感を鼓舞し、またモンクは一音一音鬼気迫るレベルで昇華し、とんでもないアルバムが出来上がった。ハードバップが全盛期に向かう息づかいとmodern jazzの歴史すら感じることのできる最重要盤だ。(ショーン)

ガーシュインの①⑤ザ・マン・アイ・ラブ、ビバップ時代にはなかったタイプのドラマチックな演奏。「バグス・グルーブ」と同日録音で、マイルスという巨人が、モンク、ミルトという巨人の協力を得て新たな分野を開拓した記録で、私自身若い頃、愛聴していた盤。③ラウンド・ミッドナイトのみが2年後のマラソンセッションから。(hand)

この「The Man I Love」も必聴盤から外せない。本当にケンカをしたのか真相は不明だが、モンクは途中で演奏をやめてしまうところが録音されているんだから面白いったらない。マイルスの「弾け弾け」といわんばかりのトランペットに押し出されてピアノを弾くモンク。それを受けてマイルスがミュートを差し込む音。すべてがドラマでしかも演奏は素晴らしい。テイク2ではハプニングなく完奏しているのに、そのやめた方のテイク1をA面の冒頭にもって来て、B面冒頭は2年後の有名なマラソンセッション時期の録音を一曲だけ入れている。そのワインストック氏の露骨な売らんかな主義もすごい。(しげどん)



おすすめ盤 3位:Bags Groove/Miles Davis バグス・グルーブ/マイルス・デイビス

1954年6月29日,

12月24日

Prestige

おすすめ度

hand     ★★★★★

しげどん ★★★★★

ショーン ★★★★☆

1954年6月29日:Miles Davis(tp), Sonny Rollins(ts), Horace Silver(p), Percy Heath(b), Kenny Clarke(ds)

1954年12月24日:Miles Davis(tp), Milt Jackson(vib), Thelonious Monk(p), Percy Heath(b), Kenny Clarke(ds)

マイルス初期の名盤中の名盤。モンクとのいわゆるケンカ・セッションを収録

アナログB面の4曲も、ロリンズの好演が聴ける優れた演奏だが、やはり聴きどころはクリスマス・セッションのタイトルナンバーだ。A面に同じ曲の2テイクが収録されているというのも、アルバムとしては異様な編集だが、2テイクとも何度聴いても凄みを感じる演奏だ。マイルスもさることながら、ミルト・ジャクソンのソロが完璧なまでに素晴らしい。もちろんモンクのソロは恐ろしいまでに研ぎ澄まされた凄みを感じる傑作。(しげどん)

インパクトのある①②バグスグルーブのアナログ時代のA面に同曲を並べた編集。これが全く違和感なく耳に入ってくる。いわゆるケンカ・セッションだが、マイルス、モンク、ミルトという巨人の緊張感ある一期一会の記録は必聴だと思う。半年前録音のロリンズ入りのB面も素晴らしいハードバップ。(hand)

アルバムタイトルのbags grooveのセロニアス・モンクが素晴らしい。テイク1と2の2テイクが収録されているが、いずれも甲乙つけ難く、ハードバップの本質を知る上で、MILES DAVIS AND THE MODERN JAZZ GIANTS のアルバムとともに、マイルスとモンクの競演であるこの曲を2テイクとも入れたPRESTIGEは偉いっ!後半のソニーロリンズ の筋肉質な演奏も見事だし、何よりマイルスの素直な演奏が素晴らしい輝きを見せている。(ショーン)



おすすめ盤 4位:Somrthin' Else/Cannonball Adderley サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ

1958年3月9日

Blue Note

おすすめ度

hand      ★★★★★

しげどん  ★★★★★

ショーン  ★★★★★

Cannonball Adderley(as), Miles Davis(tp), Hank Jones(p), Sam Jones(b), Art Blakey(ds)

キャノンボール名義だが事実上マイルスがリーダーのブルーノート録音の有名盤    枯葉が泣かせる

キャノンボール・アダレイの演奏は神がかったような美しいフレーズに、ちょっとした浮遊感があり素晴らしい。マイルス・デイビスの魔術だろうか?超有名盤だが、その名の通り、誰が聴いても納得できる良さがある。異国情緒を感じるアート・ブレイキーのドラムもイヤ味がなく、世界観の創成に大きく寄与している。(ショーン)

「枯葉」がなんといっても素晴らしい。イントロの意表をついた感じは、初めて聴いた時は強いインパクトがあったが、サム・ジョーンズとアート・ブレイキーの硬質な感覚が、超甘めのハンク・ジョーンズのピアノと融和して、絶妙にマイルスのミュートの導入部分を作り出している。A面の2曲が素晴らしすぎて、B面がやや霞んでしまうが、もちろんB面も水準以上の作品だ。(しげどん)

仕事がなかった50年代初めに毎年1回録音の機会を与えてくれたブルーノートへの御礼録音だと言われる。ただし、コロンビア所属のマイルスではなく、キャノンボールが名義上のリーダーだ。キャノンボールにはエマーシーとリバーサイドの間の好都合な時期だったのだと思う。オールスター録音だが、マイルスのリーダーシップで統制のとれた名盤になった。①枯葉は、モダンジャズの最高名演の一つだ。日本ではキャノンボールのプレイがオーバーファンク、垂れ流しなどと酷評されてきたが、改めて聞くとテクニックに裏付けられた流麗なものだ。あまり聞かれない②以降も聞く価値があると思う。CD追加の2曲⑥バングーン(旧タイトル;アリソンズ・アンクル)、⑦枯葉(別テイク)もなかなかいい。(hand)



おすすめ盤 5位:'Round About Midnight/Miles Davis ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイビス

1955年10月26日

-1956年9月10日 

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★★★

しげどん ★★★★☆

ショーン ★★★★☆

Miles Davis(tp), John Coltrane(ts), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)

名曲ラウンド・ミッドナイトの超有名バージョン収録の名盤

何を隠そう、曲として、演奏として、私が一番好きなのは、この①ラウンドミッドナイトだ。モンクの曲も良ければ、演奏も良く、ギル・エバンスとされるアレンジも最高だ。同じマイルスの他盤のこの曲が見劣りするのはアレンジの要素が大きいと思う。コルトレーンのソロもこの時期の中では最上のレベルで文句のつけようがない。だが、この盤の問題は、②アーリューチャと⑤ダッズディライトの2曲のビバップ曲がハードバップ盤としての完成度を低くしてしまっていることだ。追加曲の⑦ツーベースヒットなど3曲もビバップなので、もう少し新しい録音があり、新旧で盤が分けられていれば申し分なかったと思う。とはいえ、最高レベルの盤であることに変わりはない。(hand)

プレスティジ4部作と同系列の作品だが、一曲単位ではタイトルナンバーである「ラウンド・ミッドナイト」が、マイルスの数ある録音の中で、最も有名な演奏かも知れない。それももちろん良いけれど、私の好みはAll of You、Bye Bye Blackbird と言ったウタモノで、リラクシンに似たジャズらしい「粋」を感じる。バップチューン2曲も面白く、全曲が高水準の傑作アルバムだと思う。(しげどん)

セロニアス・モンクの名曲'round midnightにマイルスがコルトレーンとの2管で挑んだ傑作。哀愁のあるマイルスのミュートサウンドが心に染みる。またコルトレーンの演奏も完璧でとても美しい。余韻が残る名演だ。その他の演奏はそれなりのためアルバム評価は少し厳しめのB+としたが、最後のdear old stockholmもなかなか聴きごたえのある演奏。コルトレーン、ポール・チェンバースもその後の自身のリーダーアルバムでもこの曲を演奏している。(ショーン)