Milt Jackson ミルト・ジャクソン  おすすめCDレビュー  リーダー作 ③

ここでは後期にあたる1970年からの作品のうち1980年までの作品を紹介します。MJQが1974年にいったん解散し1984年に再結成されるので、ミルトが最もソロ活動を充実させた時期にあたります。ただ、時代がフュージョン期にあたりミルトもCTIのフュージョン盤からこの時期をスタートします。

ミルトの後期の印象は、クオリティの高さだ。さすが名匠ミルト、どんな盤もそれなりのクオリティを維持していた。ただ、前期のように5★を付けたくなる盤はなかった。後期はCTIのフュージョン盤から始まる。ちなみに私はフュージョンが嫌いというのではなく、ジャズマンのやるフュージョンがあまり好きになれないのだ。日本人で例えると、ザ・スクエアはいいが、ネイティブ・サンはNGなのだ。本田竹広にはフュージョンではなくジャズをやってほしいし、ジャズマンのやるフュージョン盤は聞いて楽しくないのだ。ちなみに、本田さんのジャズは大好きだ。(hand)


SUNFLOWER/Milt Jackson

1972.12.12 & 13

CTI

おすすめ度

hand     ★★

Milt Jackson(vib),Freddie Hubbard(tp,flh),Herbie Hancock(p),Jay Berliner(gr),Ron Carter(b),Billy Cobham(ds),Ralph MacDonald(perc)

+Orcfestra,Don Sebesky(arr,cond)

CTI移籍第1弾。フュージョン的な演奏だがミルト自身はいつもどおり。

70年代に入りCTIの所属となり続けて3枚を吹き込んだミルト。CTIはジャズマンに甘口フュージョンをやらせて一儲けしようという悪代官的プロデューサー、クリード・テイラーのレーベルだと保守的なジャズファンから見られているし、私もそう見ている。8ビート、エレベ、ストリングスというのが三大特徴のレーベルだと思う。ウエス・モンゴメリーが最大の被害者とされるが、4ビートジャズが売れなかった時代に、売れる路線の録音をしたのは業界・ミュージシャン双方の生活のためには仕方なかったのかもしれないが、音楽としてなかなか好きにはなれない。この盤は、ビリー・コブハムは別として、ハービー・ハンコック、ロン・カーターにフレディ・ハバードとメンバーだけ見ると新主流派盤と勘違いするが、私にはイージーリスニングにしか聞こえない。ミルト自身は従前と同じように演奏しているのかもしれないが、アレンジ過多の内容で、ミルトの名人芸はあまり感じられない。いつもは過激なフレディのトランペットやフリューゲルまでもほのぼの感たっぷりに聞こえてしまう。ただ、フレディ作のタイトル曲④サンフラワーは名曲だ。フレディ盤「バックラッシュ」ではリトル・サンフラワーとリトルが付いている。(hand)



GOODBYE/Milt Jackson With Hubert Laws

1973.12.6

④1972.12.12

CTI

おすすめ度

hand     ★★☆

Milt Jackson(vib),Ron Carter(b),Cedar Walton(p),Steve Gadd(ds),Hubert Laws(fl)、④:Freddie Hubbard (tp),Herbie Hancock(p),Billy Cobham(ds)

CTI第2作は、ヒューバート・ロウズを迎えた室内楽的フュージョン盤

CTI2作目。「サンフラワー」との違いは、ストリングスはないが、代わりにエレピが入っている。フレディの代わりにヒューバート・ロウズのフルートが入り、より室内楽的な雰囲気が漂い、ジョン・ルイスはいないのに、多少、MJQの雰囲気を感じる盤だと思う。ストリングスがいないぶん、多少ジャジーに感じる。ピアノがシダー・ウォルトン、ドラムがスティーブ・ガッドに変わるが大勢に影響はない。⑤オパスデファンクは、ミルト+フルートの再演で期待するが、甘口で完全に裏切られる。サボイ録音のソリッドな感じではない。④SKJは、前作「サンフラワー」セッション時の曲。収録時間が足りなかったのだろうか?ここにある理由はわからない。(hand)



OLINGA/Milt Jackson

1974.1

CTI

おすすめ度

hand     ★★★

Milt Jackson(vib),Jimmy Heath(ss),Cedar Walton(p),Ron Carter(b),Mickey Roker(ds)+Strings,Bob James(arr,cond)

CTI第3作は再度のストリングス入りのフュージョン盤

CTI3作目。また1作目同様のストリングス入りに戻ってしまった。シダーとロンはそのままに、ドラムがミッキー・ローカー。そして、管はジミー・ヒースのソプラノとテナーだ。ストリングスは入っているもののドラムがジャズ系になったのと、ヒースの参加で(少しだけ)ジャジー度は増えている。全体にビートがきついので、ジャズのソロイストとしてのミルトは霞み気味だと思う。(hand)



AT THE MONTREUX JAZZ FESTIVAL 1975/Milt Jackson Big 4

1975.7.17

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★★

Milt Jackson(vib),Oscar Peterson(p),Niels-Henning Ørsted Pedersen(b),

Mickey Roker(ds)

パブロに移籍し、ビッグな4人でのモントルー・ライブ

ミルト、ピーターソン、ペデルセン、ミッキー・ローカーからなるビッグ4のモントルーライブ。ピーターソン・ビッグ6の翌日だ。MJQと同じ楽器編成だが、かなり違った味わいで、ミルトの熱いプレイが聞きたいファンにはかなり適合した盤だと思う。ピーターソンとルイス、ペデルセンとヒース、ローカーとケイ、いずれも両極端まではいかないまでもかなり違った個性が楽しめる。(hand)



THE BIG 3/Milt Jackson/Joe Pass/Ray Brown

1975.8.25

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★★☆

Milt Jackson(vib),Joe Pass(gr),Ray Brown(b)

ビッグな3人によるくつろぎとスリルもある名盤

ミルト、ジョー・パス、レイ・ブラウンというまさにビッグな3人の演奏ではあるが、まさにまんまのタイトルで、日本人的にはよく付けるなぁ?という感じだと思う。多分、本人達に関係なく、パブロで決めているのだろう。演奏はドラムレスなので、くつろいだ3人の親密さを感じるセッションを想像すると、③ブルーボサのように緊張感のある演奏もあり、エバンス&ジム・ホールの「アンダーカレント」までは行かないがその路線のスリリングな味わいもある盤だと思う。(hand)



AT THE KOUSEI NENKIN/Milt Jackson

1976.3.22 & 23

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★★

Milt Jackson(vib),Teddy Edwards(ts),Cedar Walton(p),Ray Brown(b),Billy Higgins(ds)

新宿・厚生年金ホールでのテディ・エドワーズ入りクインテットの演奏

MJQは除くと、リーダーとしては初来日。今はなき新宿厚生年金ホールでのライブ。私の苦手曲、ゴルソン作の①キラージョーから始まる。多分、日本側のリクエストだと思う。ミルトもテナーのテディ・エドワーズもノッていていい悪い感じはしない。良くないのが日本のオーディエンスの手拍子で、ない方が絶対にいいと思う。選曲は全体に日本受けを狙った感じでなされていると思う。興味深いのがマイルス曲の③オールブルースだ。ミルト、ブラウン、エドワーズが演奏するとマイルス的なモーダルな雰囲気が全く出てこないことだ。シダーとヒギンズはモードも得意なので不思議だ。それにしても盤タイトルがジャパンや東京ではなく、なぜ厚生年金なのだろう。多分、当初は日本国内向けの盤だったのだろう。実際、アメリカより1年早く発売されている。タイトルには明示はないが、双頭リーダーのレイ・ブラウンが盤全体の雰囲気を引き締め、かつ、盛り上げていると思う。シダーのエレピが70年代らしい。2枚組みLPで11曲だったがCD化で9曲になり、2曲はVol.2に移されている。(hand)



CENTERPIECE AT THE KOUSEI NENKIN VOL.2/Milt Jackson

1976.3.22 & 23

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★★☆

Milt Jackson(vib),Teddy Edwards(ts),Cedar Walton(p),Ray Brown(b),Billy Higgins(ds)

厚生年金の続編ながら「ど真ん中」の素晴らしさ。

アット厚生年金Vol.2のほかに「センターピース」というメインタイトルが別に付されている盤。Vol.1にメインタイトルがないのに、2にだけ付いた例は見たことがない。Vol.1としてCD化する時に入りきらなかった2曲と未発8曲からなる盤だが、残り物ではないことを伝えるためにあえてつけた「ど真ん中曲」みたいなタイトルなのだろうと想像する。そして、盤自体は実際にどうなのか?制作側の主張(多分)が肯ける親しみやすい内容だ。エレピ曲が8ビートの⑧ブルーボサだけなのもいい。例えとして名盤過ぎて適しているか微妙だが、エバンスの「ワルツ・フォー・デビー」も「サンディ・アット・ザ・バンガード」より後に発売されている。(hand)



FEELINGS/Milt Jackson & Strings

1976.4.12-14

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★

Milt Jackson(vib),Hubert Laws(fl),Jerome Richardson(fl, alto-fl),Tommy Flanagan(p),Dennis Budimir(gr),Ray Brown(b),Jimmie Smith(ds),Paulinho da Costa(perc)+Strings,Jimmy Jones(arr,cond)

ポップヒット曲「フィーリング」をストリングス入りで

ポップヒットした曲タイトル曲①フィーリングにストリングス、聞く前から音が想像できてしまうが、聞いてみても想像どおりのイージーリスニング路線の盤だ。日本では77年のハイ・ファイ・セットのヒットで知られるが、元々はブラジルのモーリス・アルバートという人の74年のヒット曲だ。ミルトの方がハイ・ファイ・セットより早いのだ。他の曲もややジャジーなものからクラシカルなものもあるが、聞きやすさで統一された盤だ。(hand)



SOUL FUSION/Milt Jackson & The Monty Alexander Trio

1977.6.1-2

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★★☆

Milt Jackson(vib),Monty Alexander(p),John Clayton(b),Jeff Hamilton(ds)

当時若手のモンティ・アレキサンダー3との共演。イズント・シー・ラブリーが楽しい。

この時期、まだ巨匠の一歩手前とも言える元気なモンティ・アレキサンダーとの楽しい盤で、私の愛聴盤の1枚。タイトルと違い、ソウルでもフュージョンでもなくジャズ盤で、リズム隊は、ジョン・クレイトンとジェフ・ハミルトンでモンティのレギュラートリオ。ジャマイカ出身の元気なモンティと若手リズム隊と組んでミルトも楽しそうだ。モンティとは「ザッツ・ザ・ウェイ」と「ジャスト・ザ・ウェイ」以来の共演だと思う。スティービー・ワンダー作のポップなイズント・シー・ラブリーは、明るくてあまりミルトらしくないが、時々聞きたくなる演奏だ。(hand)



Montreux '77  Milt Jackson/Ray Brown JAM

1977.7.13

 

Pablo

おすすめ度

 

hand     ★★★

Milt Jackson(vib),Ray Brown(b),Clark Terry(flh),Eddie "Lockjaw" Davis(ts),Monty Alexander(p),Jimmie Smith(ds)

盟友レイ・ブラウンとのモントルーフェス。「ユー・アー・マイ・サンシャイン」が珍しい。

盟友レイ・ブラウンと組んでのモントルーフェスでの演奏。クラーク・テリー、エディ”ロックジョー”デイビスの2管フロントに、ピアノはモンティ、ミルトとは前作「ソウル・フュージョン」で共演したばかり。レイとモンティは初共演かもしれない。この後、共演が増えていく。ドラムはオルガンとは別人のジミー・スミス。これだけのメンバーが揃えば、ただ演奏しただけで、それなりの盤ができてしまう。そんな感じの盤だ。レイが演奏全体を引き締めていると思う。④ユー・アー・マイ・サンシャインが珍しい。(hand)



BAG'S BAG/Milt Jackson

1977.12.12

1978.1.20

1980.1.21

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★

Milt Jackson(vib),Jerome Richardson(ss),Cedar Walton(p),Ray Brown(b),Billy Higgins(ds),Frank Severino(ds:2)

ジェローム・リチャードソンのソプラノとシダー・ウォルトンのエレピが活躍

ミルト=レイの作品。ミルトだけでなく、ジェローム・リチャードソン(CD未表示)のソプラノとシダー・ウォルトンのエレピが活躍する盤だ。全体がジャズなので、エレピの印象も悪くない。②にボーカルが入っているがこれも表示がない。ミルトかもしれない。③スローボートの軽快な感じがいいと思った。(hand)



SOUL BELIEVER/Milt Jackson Sings And Plays

1978.1.20 & 9.18-19

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★

Milt Jackson(vib,vo),Plas Johnson(ts),Cedar Walton(p),Dennis Budimer(gr),John Collins(gr:4-7,9),Ray Brown(b),Billy Higgins(ds)Frank Severino(ds:4-7,9),Michael Lang(synth)

14年ぶりのミルトのボーカル盤。今回はバイブも担当

1964年のイタリア録音「シングズ」以来14年ぶりのミルトのボーカル盤。決して上手くはないが悪くはない。シンセなども入って前回よりもムーディな作りだと思う。シダー・ウォルトンのエレピは「バグス・バッグ」でもそうだったが、フュージョンぽくならずにカッコいい。(hand)



NIGHT MIST/Milt Jackson

1980.4.14

Pablo

おすすめ度

hand     ★★★☆

Milt Jackson(vib),Harry "Sweets" Edison(tp),Eddie "Cleanhead" Vinson(as),Eddie "Lockjaw" Davis(ts),Art Hillery(p),Ray Brown(b),Larance Marable(ds) 

“スイーツ”、“クリーンヘッド”、“ロックジョー”の3管を迎えてのブルース曲集

3管を迎えてのブルース曲集。ハリー“スイーツ”エディソン、エディ“クリーンヘッド”ヴィンソン、エディ“ロックジョー”デイヴィスとニックネームが真ん中に入ったメンバーばかりだ。3管と言っても合奏は少なめでハードバップな感じにはなっていない。ブルースの得意なミルトは、本領を発揮している。(hand)



HI FLY/Milt Jackson

1980.7.4

JLR

おすすめ度

hand     ★★★★

Milt Jackson(vib),Johnny O'Neal(p),Steve Novosel(b),Vinnie Johnson(ds)

スタンダードが多めで楽しめるヒットパレード盤

JLRというポルトガルの海賊レーベルから出たジョージア州アトランタでの2枚組ライブ。ミルトの海賊盤は珍しい。多分、MJQも含めて正規盤が多過ぎて、海賊盤まで売れるとは思えないからだと思う。とはいえ、企画性のないスタンダードが多めのヒットパレードのようなこの盤は意外と楽しめる。バイブがワイルドで金属的な音色で録られているのも私には好ましい。(hand)



BIG MOUTH/Milt Jackson

1981.2.26 & 27

Pablo

おすすめ度

hand     ★★☆

Milt Jackson(vib)

gr:Dennis Budimir(1,4,6),Oscar Castro-Neves(2,7,8),Ron Escheté(3,5)

keyb:Don Grusin(3,5),Michael Lang(1,2,4,6-8)

b:Abraham Laboriel(1,3-6),Ray Brown(2,7,8)

ds:Carlos Vega(3,5),John Guerin(1,4,6),Nick Ceroli(2,7,8)

Perc:Joe Porcaro(1,2,4,6-8),Larry Bunker(1,2,4,6-8),Paulinho Da Costa(3,5),Roger Bethelmy(3,5)

vo:Edie Lehmann, Jackie Ward, Linda Harmon, Marti McCall

レイ・ブラウンがプロデュースしたフュージョン的な盤

エイブ・ラボリエルのチョッパーも含めてエレベが主役級に目立つフュージョン的な盤。ラボリエルのベースは若い頃、リー・リトナー盤で愛聴したが、この手の音は今はあまり聞く気になれない(ミシェル・ペトルチアーニ盤でのジャジーな演奏は今も聞ける。)。この盤は、タイトル曲①のソウルフルな女性コーラスもフュージョン度を高めていて、ミルトのバイブも埋没気味だ。中に一部、ルック・オブ・ラブなどは巨匠レイ・ブラウンのアコベのボサノバも入っているのは好ましい。盤のプロデュースが何とレイ・ブラウンなのだが、やはり全体の印象は、ファンキーなフュージョン盤だ。ジャジーなミルトを聞くのでなく、フュージョンを楽しむだけなら快適な盤だと思う。(hand)