Jackie Mclean ジャッキー・マクリーン CD 主要作品 ディスクガイド:リーダー作5

最終作にして素晴らしい傑作「Nature Boy」

リーダー作4のページで記述した通り、新宿ジャズ談義では、マクリーンの最盛期を、デビューした1951年からブルーノートのラスト作69年までの前期とし、復活後の72年から最終録音の99年までについては、hand氏が個人研究としてコメントし、私しげどんが盤によってはコメントし、この時期の作品を ディスクガイド リーダー作4、リーダー作5の2ページにわたってコメントしています。

このページはそのリーダー作5として、彼の最後期の作品をレビューしていきます。



It’s about Time/McCoy Tyner & Jackie Mclean イッツ・アバウト・タイム

1985年4月6,7日

Blue note

おすすめ度

hand       ★★★☆

しげどん  ★★★★

Jackie Mclean(as),McCoy Tyner(p),Ron Carter(b),Al Foster(ds)Jon Faddis(tp),Marcus Miller(b),Steve Thornton(perc)

ブルーノート復活祭がきっかけとなったマッコイ・タイナーとの双頭リーダー盤。ユー・トート・マイ・ハート・トゥ・シングは名バラード

ブルーノート復活祭がきっかけとなったマッコイ・タイナーとの双頭リーダー盤(マクリーンは全6曲中4曲参加)。タイナー曲②ユートートマイハートトゥシングは名バラードで当時FM東京の番組で流れていた記憶がある。マクリーンの艶やかな音色が耳に残る。他はトランペットにジョン・ファディスを迎え、オーソドックスなジャズからフュージョン的な曲まで演奏している。(hand)

いわゆるベテラン同志の懐古セッションとしてのダンナ芸かと思いきや、とても充実した内容に驚く一枚だ。ベテランのマクリーンを立ててタイトルだが内容はマッコイ・タイナーの作品で、タイナーの音楽性に寄り添うマクリーンはソロイストの役割だ。でもそいうポジションのほうが名演しがち(ex直立猿人,クール・ストラッティン)なマクリーンらしく、味わいあるソロで快調に演奏している。タイナーも必要以上の自己主張を避けてマクリーンの個性をうまく引き出しているのはさすが。(しげどん)



Left Alone ’86/Mal Waldron & Jackie Mclean/レフト・アローン’86/マル・ウォルドロン&ジャッキー・マクリーン

1986年9月1日

Paddlewheel

おすすめ度

hand       ★★☆

しげどん  ★★★

Jackie McLean(as),Mal Waldron(p),Herbie Lewis(b),Eddie Moore(ds)

レーザーディスク用の録音のCD化作品

当時流行のレーザーディスク用に日本人プロデュースで録画・録音したもの。LDも買ってしまい、後悔(笑)。87年に中古で4000円もしたのに、今は無価値だ。マル+マクリーン=レフト・アローン→売れる、という日本的商業主義の象徴のような盤。2人のソロそれぞれは悪くはないが、作品としてはどうなんだろう?と疑問符ばかりで、これを聞くなら、初演盤を聞いたほういいと思ってしまう。まさに営業盤で、本国では発売されたくないものかもしれない。再演は、やるなら新アレンジ、それかジャズフェスかライブアンコールの余興くらいがちょうどいいと思う。ただ、⑥マイナーパルセーションは快演で好ましい。(hand)

単に懐古的な再開セッションと言ったらそれまでだが、もしこのコンビでのレフト・アローンをこの時点でライブで聴けたらファンは泣いて喜ぶと思う。ポール・マッカートニーが東京ドームでレット・イット・ビーをやるのと同じだ。それをあえてスタジオ録音する意味はと考えると微妙なのだが、あくまでもレーザーディスク作品ありきの録音だったようで、その画像も今では貴重な記録なので、見てみたいものだ。(しげどん)



Dynasty/Jackie McLean  ダイナスティ/ジャッキー・マクリーン

1988年11月5日

Triloka

おすすめ度

hand  ★★★★☆

しげどん ★★★★

 Jackie McLean(as), René McLean(ts,ss,fl), Hotep Idris Galeta(p),Nat Reeves(b),Carl Allen(ds)

「ニューヨーク・コーリング」以来の意欲作。新生マクリーンで、ブルーノート時代のような素晴らしさがよみがえった盤

「ニューヨーク・コーリング」以来、14年ぶりにマクリーンがやりたい音楽に取り組んだと思われる意欲的作品。フィーチャリング・ルネ・マクリーンとなっていて、息子ルネが双頭的に扱われている。トリロカというマイナーレーベルの吹き込みだ。トリロカには、フレディ・レッド、リッチー・バイラーク、アンディ・ラヴァーンなども録音を残している。内容は、スタジオでのライブで、メンバーは緊張感のある演奏をしている。曲もブルーノート時代のように、張り詰めてはいるが、歌心もあわせ持っている。マクリーンは、フリーキーな音も含めて、アルトをよく鳴らしている。また、バラード②ハウスイズノットアホームは、ビル・エバンスの名演があるバカラックの名曲で、マクリーンのこの演奏も甘くならず素晴らしい。(hand)

懐古的にならず前向きなスタンスでマクリーンらしさ全開の力作。オリジナル曲中心なので、フリー寄りのアグレッシブすぎる難解さを危惧したが、曲によっては抒情性も良く表現されているし、スタジオライブなので快調なノリの良さも感じられる。この時期のマクリーンらしさがよく出ている佳作だ。(しげどん)



Rites of Passage/Jackie McLean  ライツ・オブ・パッセージ/ジャッキー・マクリーン

1991年1月29日,30日

Triloka 

おすすめ度

hand    ★★★☆

しげどん  ★★★☆

Jackie McLean(as),René McLean(ts、as,ss),Hotep Idris Galeta(p),Nat Reeves(b),Carl Allen(ds),Lenny Castro (perc)

 

「ダイナスティ」の流れを汲む盤。60歳でも元気なマクリーン

誕生日は5月だが、60歳を迎える年のマクリーン。演奏は、まだまだ元気で、「ダイナスティ」以来3年ぶりの前向きなトリロカ・レーベルの作品だ。今回もフィーチャリング・ルネ・マクリーンとなっていて、双頭的な扱いだ。ルネは、ソプラノ、アルト、テナーが持ち替える。90年代なのに60年代の新主流派のようなハードな盤。ちょい真面目過ぎて楽しめないかもしれない。(hand)

新主流派テイストのストレートなジャズ作品で、曲も激しくクールな印象のものが多い。でも時折和やかな雰囲気もあるのは、やはり親子共演の楽しさが気持ちに出ていると想像した。シリアスさだけでなくもっとリラックスしたテイストが加味されれば聴きやすい盤になったと思う。(しげどん)



Mac Attack Live/Jackie McLean  マック・アタック/ジャッキー・マクリーン

1991年4月2日

Polydor

おすすめ度

hand      ★★★★☆

Alto Saxophone – Jackie McLean(as),Hotep Idris Galeta(p),Nat Reeves(b),Carl Allen(ds)

 

エネルギーを爆発させた元気なマクリーン。リズム隊も素晴らしく、全員の気力が充実した良盤。

「ライツ・オブ・パッセージ」の2カ月後に、ルネ以外のカルテットでのライブ。エネルギーを爆発させた元気な60歳のマクリーン。リズム隊も素晴らしく、全員の気力が充実した良盤。これまで持っていて聞かなかったのを反省(笑)(hand)



Rhythm of The Earth/Jackie McLean  リズム・オブ・ジ・アース/ジャッキー・マクリーン

March 12 & 13 1992年3月12日,13日

 Polygram

おすすめ度

hand      ★★★★

Jackie McLean(as),Steve Davis(tb),Roy Hargrove(tp),Steve Nelson(vib),Alan Jay Palmer(p),Nat Reeves(b),Eric McPherson(ds)

教え子たちと熱く演奏する指導者マクリーン

指導者としてのマクリーンが教え子の若手と録音した盤。タイトル曲①は16ビートのエレベ&ドラムからのスタートする16分の長尺。リズムは少々気になるが、マクリーンらフロントはジャズとしか言いようのない内容。ジャズとしての新しさを追求している感じで、ウィントン・マルサリスらを意識している可能性もある。②フォーホフサは美しいバラード。全体としては、フロントも多く、ソロをとる人数が多いので、多少、散漫な印象もあるが、マクリーンがひたすら激烈にソロをとり、ロイ・ハーグローヴらのソロもキレがあるので、悪い印象はない。(hand)



Hat Trick/Jackie McLean Meets Junko Onishi ハット・トリック/ジャッキー・マクリーン

1996年1月28~31日

Somethin' Else 

おすすめ度

hand      ★★★★

しげどん ★★★★

Jackie McLean(as),Junko Onishi(p),Nat Reeves(b),Lewis Nash(ds)

我らが大西順子との共演盤。最高レベルの音楽を求める2人の高水準の演奏

最後のリーダー盤3枚は、日本の東芝EMIがブルーノートの弟レーベルとして作ったレーベル、somethin’ else からの作品となる。1枚目の本盤が我らが大西順子との共演となる。大西も引退したり復活したりでマクリーンと似ており、常に最高レベルの音楽を求めているところも似ている。全体に高水準の演奏。ただ、この作品、レフトアローンやセンチメンタルジャーニーなど選曲にやや商業的な面が目立つだけでなく、大西もマクリーンに少々遠慮している気がする。協調は当然重要だが、強烈な自己主張はそれ以上に重要だと思う。マクリーンが嫌がるくらい激しいバッキングなどして欲しかった。(hand)

4年ぶりの復帰作は迫力ある力演ぶりで、マクリーン,大西順子ともにとにかくかっこいい。しかしいかにも日本企画らしいヒットパレード選曲は、ファンサービスを意識しすぎかと思う。常に前進志向だったマクリーンにとっても一部はやらされ感があったのだろうと推測してしまう。演奏が好調なだけにもっと自由な選曲をさせてあげればよかったのにといまさらながら思ってしまう。でもとにかく内容は素晴らしい。(しげどん)



Fire & Love/Jackie McLean  ファイア&ラブ/ジャッキー・マクリーン

1997年7月15日,16日                  Somethin' Else 

おすすめ度

hand      ★★★☆

しげどん  ★★★

Jackie McLean (as),René McLean(ts),Raymond Williams(tp,flh),Steve Davis(tb),Alan Jay Palmer(p),Phil Bowler(b),Eric McPherson(ds)

マクリーン的ストレート・アヘッド・ジャズ作品

somethin’ else からの2作目。5年前の「リズム・オブ・ジ・アース」と似たルネ・マクリーンらとの作品。マクリーンのやりたいことをやった盤として、好感が持てる。リズムもピシッときまっているし、アルトもよく鳴っている。ただ、やはり、あまり売れなそうだ。(hand)

ルネ・マクリーンに加え、トランペット、トロンボーンを加えた4管編成のセプテット。その人数の割には編曲は特に凝っていないので、各メンバーの勢いあるソロがそのまま味わえるストレートに味わえる作品になっている。曲はマクリーンほか4管を担うメンバーがそれぞれ提供したオリジナルだが、やや無機質なイメージでなじみにくいメロディのものが多い印象だ。(しげどん)



Nature Boy/Jackie McLean  ネイチャー・ボーイ/ジャッキー・マクリーン

1999年6月12日,13日

Somethin' Else 

おすすめ度

hand      ★★★★★

しげどん  ★★★★★

Jackie McLean(as), Cedar Walton(p),David Williams (b), Billy Higgins(ds)

現時点でのラスト盤。シダー・ウォルトン・トリオとの共演で最後に名盤を残してくれた。

somethin’ else からの3作目で現時点ではラスト作。シダー・ウォルトン、サム・ジョーンズが亡くなりデビッド・ウィリアムス、ビリー・ヒギンズという素晴らしいトリオとの共演。サム時代のこのトリオとは、77年のアート・ファーマーとの来日時に共演している。

①君は恋を知らない。ロリンズの「サキコロ」の名演で有名。マクリーンが吹くとソロがレフト・アローンに聞こえる。タイトル曲②ネイチャーボーイ、湿ったメロディが似合わなくなった復帰後のマクリーンだと思うが、楽器を変えたのか、暗く悲しいメロディにもうまく適合している。③言い出しかねて、こういう明るいバラードが後期のマクリーンに特に合っていると思う。甘口の曲も甘口にならないのがシダーというピアニストの特徴だと私は思っている。そのことが奏功したのがこの盤だと思う。

マクリーンは2006年3月31日に74歳で亡くなっている。最後7年間は、今のところ録音が発見されていないが、日本ツアーの記録などもあるので、今後、音源が発掘されることを期待したい。(hand)

マクリーン節をストレートに全開した傑作盤。最終作で彼の本質的な魅力を表現しつくしたような感動的な素晴らしい作品。シンプルにスタンダードをマクリーン節全開で歌い上げている。

様々な表現にアグレッシブにチャレンジしてきたマクリーンだが、彼の本質はここなのだと思える魅力への原点回帰だ。最終作となってしまった点も感慨深く、パーカーの愛奏曲Star Eyesの味わいで思わず落涙してしまいそうになった。(しげどん)