このページでは、1962年以降のヨーロッパ滞在時の作品から、帰国後の作品をレビューしています。
この欧州滞在時期は、かなり積極的にライブ活動は行っていたと思われ、ストックホルムのゴールデン・サークルでのオープニング出演でのライブも、この時期を代表するシリーズです。
しかしながら、この欧州在住期間中に、ライブに関しては死後の発掘音源も出てきているものの、正式なスタジオ録音は少ない(Bud Powell In Parisなど)ので、精力的な活動がいい状態の音質で正しく記録されていないと思われるのが残念です。欧州には5年間滞在し、64年にニューヨークに戻りますが、そのわずか2年後に41歳で生涯を閉じました。
・新宿ジャズ談義の会 :バド・パウエル CDレビュー 目次
リーダー作、サイド参加作、発掘盤も含めてレビューしています。下記よりクリックして参照してください。
・Bud Powell CDリーダー作 ①1947年~55年
・Bud Powell CDリーダー作 ②1955年~58年
・Bud Powell CDリーダー作 ③ 1959年~パリ時代
・Bud Powell CDリーダー作 ④ 1962年~65年 パリ時代後半~帰国・・・このページ
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
ストックホルムのライブハウス、ゴールデンサークルでの録音。Vol.1,2,3が62年4月19日、Vol.4,5が23日の録音で、現地ベース&ドラムだ。スティープルチェイスが5枚も発売するほど好内容のライブだったということだ。近年再編集され、Vol.1,2は曲が追加・曲順変更があり、カットされていた部分の復元もあった。ここでは最新盤CDについてコメントする。ゴールデンサークルの5枚の特徴は、1曲の演奏時間が長いということだ。2か月半前のスイス録音では、最長のスウェディッシュ・パストリーが7分40秒(ジュネーヴ)だった。ゴールデンではスウェディッシュが10分45秒(Vol.1)と18分20秒(Vol.3)、最長のストレート・ノー・チェイサーは20分(Vol.5)となっている。聞いていて飽きることもないので、バドの好調さが半端ないということだと思う。(hand)
ストックホルムでのライブシリーズの第一作。ライブそのままの録音だと思うが、長い演奏がそのまま記録されている。冒頭のSwedish Pastryの長尺のソロなどは、若い頃のキメの細かさはないものの、次々と湧き上がるフレーズは凄みを感じる迫力だ。スタンダード、バップ・チューンと、パウエルにとっては手慣れた曲目が続くので、リラックスした味わいがある。62年という年度の割に録音があまりよくないのが残念。(しげどん)
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
Vol.1と同日録音。旧盤のVol.1から冒頭に①ハッケンサックが繰り下がって追加されている。ここでは⑤ブルース・イン・ザ・クローゼットが15分超の圧巻の演奏だ。バドのアドリブは尽きることがないという感じだ。(hand)
ヨーロッパ在住時期は、録音作品の状況から思うに冷遇されていたのだと考えざるを得ない。その中ではこのゴールデン・サークルへの出演は、この時期のパウエルにとっては華やかなイベントだったのではないか。とても上機嫌に演奏しているように聴こえる。パーカーの「ムース・ザ・ムーチェ」では、アドリブの冒頭に同じパーカーの曲クール・ブルースを引用したりして、とてもノリノリなのは、気持ちがハイになっていたのだと思う。ブルース・イン・ザ・クローゼットでの汲めども尽きぬアドリブも素晴らしい。(しげどん)
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
全3曲とシリーズの中では最少曲数。①スウェディッシュ・パストリーは、ギターのバーニー・ケッセルのバップ曲。18分超の快演だ。Vol.1に続き、同日にこの曲を2回やったようだ。昼と夜のセットだろうか?ところでこの曲、作者のケッセル自身の盤を探したが見つからなかった。唯一探し当てたのが、スウェーデンの伝説のクラリネット奏者、スタン・ハッセルガードのアナログ盤のYouTube。47年12月18日録音。ケッセルのソロも入っていた。Vol.3の②クリフォードは以前から人気がある。(hand)
1曲が長く3曲しか入っていないが、アドリブの洪水に驚く。アタマの中ではアイデアにあふれていたんだと思う。3曲いずれも、Vol.1,Vol.2 で演じている曲で、それも長い演奏だったが、Swedish Pastryは Vol.1 収録のものも長くて迫力があったが、さらに2倍近い長さになっている。よほどとても調子よくノッテいたんだろうと思う。(しげどん)
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
Vol.4,5は、ストックホルムのライブハウス、ゴールデンサークルで62年4月23日の同日録音。バドは引き続き好調ではあるが、4日前の19日の方がノリが良かった気がする。(hand)
ムース・ザ・ムーチェでは、またもや「クール・ブルース」引用からスタートするので、ノリノリ気分というよりルーティンになっていたようだ。ジョンズ・アビーはアメイジングVol.4で演奏されたバド・パウエルの曲。ブルーノート盤ではオリジナル曲を多く録音しているが、なぜかライブでのレパートリーに加えた曲は少なく、このシリーズでも彼の曲はこれだけだ。なぜなんだろう。(しげどん)
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
ラストVol.5は①ホットハウスで元気に始まる。②ラフィングマターではライブでは珍しくバドの歌が聞かれる。(hand)
「This Is No Laughing Matter」では弾き語りでバドの歌声が聴ける。マイクはバドの声をダイレクトに捉えていない感じがするし、バドの歌はもちろん巧いとは言えないが、素直な声でなんだかジーンとくる味がある。ストレート・ノー・チェイサーは20分の力演。最後はパウエルさんのご挨拶で終わる。演奏の良し悪しを超えたドキュメンタリーとして、感動的な記録だ。(しげどん)
Bud Powell(p),Niels-Henning Ørsted Pedersen(b),William Schiöpffe(ds)
ゴールデンサークルVol.4,5の3日後にベースに16歳のペデルセンを迎えコペンハーゲンでのスタジオ録音。ストーリーヴィルからの唯一の盤で、ペデルセンとの録音は貴重だ。ドラムのウィリアムス・シープッフェは知らないが、調べてみると北欧では活躍した人のようだ。ただ、録音は軽いシンバルがやや耳について、ベースはあまりアピールしない。ベースソロもないので、淡々とウォーキングしている感じだ。バド自身は独特の重い雰囲気がなく、高音域を中心に楽しそうにピアノを弾いている。写真はデルマーク盤。(hand)
Bud Powell(p),Torbjörn Hultcrantz(b),Sune Spångberg(ds)
ゴールデンサークルの5枚に選ばれなかった演奏のCD3枚組と思っていたが、ライナーを読んだら別の人が海賊録音した同時期の音源とのこと。Disc1,2は62年の春か秋か不明、Disc3は9月20日の演奏。5枚の名盤と比べると作品としては落穂拾い的で散漫な感じがある。ただ、今回、編年的にバドを聞き直した結果、以前ほど印象は悪くなくなった。バドの盤にはベースソロやドラムとの4バースがないものが多いが、この盤1曲が短い割には意外と入っている。といっても、この地元ベーシストは速い曲ということもあるがランニングベースしかしないのだが(笑)。62年4月はゴールデンサークルが開店したときで、バドは開店ライブに呼ばれたらしい。春の演奏がご機嫌な内容になった理由の一つだと思う。(hand)
Bud Powell(p)
フォンタナから発売されたフランシス・ポードラの私家録音。ポードラのブラシ入り(叩いているのは電話帳かもしれない。)。上ははブラックライオン盤。(hand)
Bud Powell(p),Gilbert Rovere(b),Carl Donnell "Kansas" Fields(ds)
渡欧後の人気盤だ。ただ、なぜデューク・エリントンがこのタイミングでバドの作品をプロデュース?という疑問はライナーを読んでもわからなかった。天才・明田川さんが技術ではない芸術の素晴らしさを説いてくれた文章だから仕方ない。パリ録音ならば、ミシェロ&クラークかと思うとジョルジュ・ロベールとカンサス・フィールドという人である。このドラム、アメリカから来たらしいが録音のせいかシンバルがちょいうるさい。エリントンが何をプロデュースしたのかよくわからない。サテンドールが入っているのがエリントンとの関係を感じる唯一の要素だ。ただ、バドが頑張って録音したことは確かで、この時期の録音にしては調子が良さそうだ。(hand)
くつろぎのパウエルを代表する作品だ。素直に聴きやすいパウエル=陳腐ではない格調を感じる名演集だと思う。パウエルといえば前期の天才ぶりばかりに焦点があたるが、後期の味わいも悪くないので後期の代表作としてあえてあげておきたい。私はブルーノートの第五集よりいい感じだと思うがこれは好みの問題かも?ルースト盤では凄みのあるインディアナだったが、ここでのインディアナはインディアナらしいインディアナで差は歴然。エリントンがプロデュースしているがどこまで効いているのか?サテンドールは演じてはいるが・・・(しげどん)
インプロヴィゼーション、所謂アドリブ演奏はただキーが合っていれば自由に弾いて良いかと言えばそうではなく、いかに主題のフレーズを意識しながらより創造性を駆使して広げられるかだと思う。その意味において、このアルバムのパトパウエルの弾くDear Old Stockholmは、そのお手本とのいうべき名演だ。4分足らずの短い演奏だが、この曲に2番があるのなら、聴いてみたいという余韻に溢れる素晴らしい仕上がりだ。(ショーン)
Bud Powell(p),Guy Hayat(b),Jacques Gervais(ds),Johnny Griffin(ts)
ポードラの私家録音をブラックライオンが正規発売した盤。とはいえ、内容は物凄い素晴らしさだ。特にこの盤は、晩年では一番光を放っていると思う。「バド・イン・パリ」で共演したジョニー・グリフィンが再び6曲中3曲で華を添えている。仏ノルマンディー海岸の保養地エデンビルのバドの演奏は穏やかなものが多いが、グリフィンが触媒になったのか、ここには熱く激しい演奏が集められている。グリフィンも好きな私としては、グリフィンの一二を争う好演だと思う。(hand)
全曲がよく知られた曲なので、やりなれた曲故のリラックス感を感じる。パウエルは往時の輝かしいソロではないが、重たく深い感じのソロで悪くない。でもジョニー・グリフィンがもっと目立っている。好演だ。録音状態は良いとは言えないが、パウエルの唸り声もよくとらえられていて、鑑賞には問題ないレベルだろう。(しげどん)
リアルで生々しいライブ演奏。バドパウエルの自然と出るガナリ声とは対照的に美しい旋律メロディを聞くと、天才が新しいフレーズを生み出す時のスタイルが良くわかる貴重な盤だ。テナーのジョニーグリフィンとのセッションもノリ良く好演だ。(ショーン)
Bud Powell(p),Michel Gaudry(b),Art Taylor(ds)
「インビシブル・ケージ/姿なき檻」という日本タイトルで出ていたこともあるブラックライオンのスタジオ録音盤。ミシェル・ゴードリー、アート・テイラーのトリオだ。それにしても真っ暗いタイトルで、バドの死期が近づいていることもありタイトルだけ聞くと暗くなるが、内容は決して暗くない。夢中になり演奏しているバドに好感が持てる。①〜⑧が64年7月のパリ録音で元々の内容。タイトル曲⑥ブッフェモンは深みのあるブルースだ。CD化で⑨〜⑪のフランス・ノルマンディの保養地・エデンビルでのポードラの私家録音が追加されている。(hand)
Bud Powell(p),John Ore(b),J.C. Moses(ds)
ルーレットのスタジオ録音。64年10月22日(9月18日説あり)、生涯最後の正規録音で、ベースとドラムはジョン・オーとJ.C.モーゼス。聞いてみると、バド贔屓の私にもこの盤だけはちょいまずいなと思わせる。3か月前のライブでは好調だったのに、である。バードランドの出演料で大量に飲んでしまったのであろうか?好不調の波が押し寄せる病気のせいだろうか?この時点でバドはまだ40歳になったばかりなのだ。「リターン・オブ」と銘打っての母国での復活盤のはずなのに、最後のスタジオでの不調記録となってしまったのは残念だ。ただ、私はまたこの盤を聞くと思う。アップテンポの演奏以外には、何かしら訴えてくるものがあるからだ。(hand)
凄みを失ってもリラックスした格調があったパウエルだが、この作品はなんだかバラバラな感じで、さすがに調子が悪かったのか?折角の復帰作ではあるが、味わいのない演奏になっていて残念だ。ドラムのJ.C.モーゼスがデリカシーのないドラム缶を叩いているようなバッキングで興覚めなのも要因かと思う。(しげどん)
Bud Powell(p),Unknown(b),J.C. Moses?(ds)
バドの死後にメインストリームから発売されたラスト録音を含む盤。65年3月27日の⑦ラウンドミッドナイトは、多分、最後の録音だ。パーカー没後10周年メモリアル・コンサートの音源で、ソロで演奏されている。重みと風格のある演奏だと思う。コンサートのライムライト盤にバドは入っていないが、チラシには名前がある。⑦以外はソロとトリオのスタジオ録音で音がいい。60年パリ録音説と64年ニューヨーク録音説がある。ニューヨークから再度パリに戻っていないと思うので、どちらの説もありうるものだ。音からの判別は難しいが、私はどちらでもなく、渡仏直前にアメイジングVol.6が企画されそのためのリハーサルセッションではないか?(笑)などと推測しながら聞いている。コルトレーンの⑤モーメンツノティスを晩年のバドがやるとは思えず、渡仏前のブルーノートのリクエストならやるかも?とか想像するのだ。NY説では、ベースは不明でドラムはJ.C. モーゼスとされている。ブレイキー的なドラムだと思う。
ある方のブログに、バドの三つの願いが記載されていた。1. Not to have to go to the doctors and the hospitals. 2. To go to Japan.3. To make a record.とある。2を実現させたかった。(hand)
録音の詳細が不明だが、拍手の様子や聴衆の掛け声からライブハウス的な場所のような感じだ。ラウンド・ミッドナイトだけはコンサートステージのような拍手に聴こえる。ところどころヨレヨレな感じもする演奏だが、アップスンダウンとは栄枯盛衰のイメージだろうか、自分の死期を悟ったかのような暗く、寂しく聴こえる演奏だ。(しげどん)
・新宿ジャズ談義の会 :バド・パウエル CDレビュー 目次
リーダー作、サイド参加作、発掘盤も含めてレビューしています。下記よりクリックして参照してください。
・Bud Powell CDリーダー作 ①1947年~55年
・Bud Powell CDリーダー作 ②1955年~58年
・Bud Powell CDリーダー作 ③ 1959年~パリ時代