Miles Davis CDレビュー リーダー作 ⑨ 復活後

1981年、5年間という長い沈黙からマイルスは甦ります。ここから91年に亡くなるまでの11年間の快進撃が始まります。後期をエレクトリック・マイルスとして一括りにされることが多いのですが、音楽性はかなり異なります。プログレやハードロックのような激しく重厚な70年代と、ポップでファンクでシンプルな聞きやすい時期が復活から亡くなるまでの80年代です。

私にとって後期マイルスは、“曲“というものがとらえられず、”これがスパニッシュ・キイという曲です”と言われてもどんなメロディか全くわからないし、覚えられないので、ソロを中心に楽しむしかないという状況になってしまう。例外的に唯一覚えられた曲はこの復活後の「ウィ・ウォント・マイルス」などに入っているジャン・ピエールだけだった。(hand


THE MAN WITH THE HORN/Miles Davis

1980.6.1-1981.5.6

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★★

Miles Davis(tp), Bill Evans(ss), Barry Finnerty, Mike Stern(gr), Marcus Miller(el-b), Al Foster(ds), Sammy Figueroa(perc)

③⑤:Robert Irving III(el-p,syn), Randy Hall(gr,vo,syn),Felton Crews(el-b), Vincent Wilburn(ds)

奇跡の復活を遂げた記念すべき盤

1978年頃からジャズを聞き始めた私には同時代的に聞いたマイルスはこの盤からなので、多少の馴染みがある。アコースティック・マイルス好きが、エレクトリック期を一切聞かずとも聞けるのがこの復活盤だと思う。この盤そしてこの時期の特徴は、シンプル、メタリック、そしてエレクトリック期にはあまり感じられなかった歌心のある親しみやすいメロディのある曲が戻ってきたと思う。混沌、濁り、重厚さという名の重苦しさ、そしてロックが消え、スッキリとしたポップな音楽、カテゴリとしてはファンクなのかもしれない音楽になっている。楽器編成はほとんど変わらないから不思議だ。個人的には後期の代表曲と思えるジャン・ピエールが入っていて欲しかった。1か月後の海賊ライブには入っているのだから、微妙に間に合わず残念だった。唄入りのタイトル曲だけは少しかったるい、歌謡曲的なリズムのせいだと思う。(hand)



WE WANT MILES/Miles Davis

1981.6.27,7.5 & 10.4

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★★☆

Miles Davis(tp,kbd), Bill Evans(ss), Mike Stern(gr), Marcus Miller(el-b), Al Foster(ds), Mino Cinelu(perc)

テオ・マセロの編集で復活後を代表するライブ盤となっている。

日米3か所での復活ライブからの2枚組編集盤だが、よくまとまり後期を代表する盤になっていると思う。①ジャン・ピエールが入っていることが大きいが、ミラー、スターン、フォスターそしてマイルスがこの時期の音を作っている。スタジオ盤よりは多少70年代の重さは感じる。2①ベスなど2枚目は旧来型のファンにも聞きやすいと思う。日本発売の「マイルス!マイルス!マイルス!」とカブるのは仕方ないが、こちらのほうがテオ・マセロの編集でカッコいい仕上がりになっている。再発時に「マイルス!…」からの3曲おまけ追加は不要だったと思う。「マイルス!…」の入手しにくさからの配慮かもしれないが、せっかくの作品が散漫になってしまう。(hand)



MILES! MILES! MILES! LIVE IN JAPAN '81/Miles Davis

1981.10.4

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★☆

Miles Davis(tp,kbd), Bill Evans(ss), Mike Stern(gr), Marcus Miller(el-b), Al Foster(ds), Mino Cinelu(perc)

西新宿の特設会場での復活マイルスの記録

全国7回公演で70万ドルというものすごいギャラで来日したマイルス。スポンサーは味の素でドリンクのアルギンZの冠コンサートに位置付けられていたようだ。私はこの頃にはジャズを聞き始めていたのだが、まだ3年目で、行こうとは思いもしなかった。後悔だ。今の都庁の場所が新宿西口広場で特設会場を作ったとのこと。チケットがなくても、屋外なので行けば聞こえたかもしれない。10月だがかなり寒い日だったようだ。マイルスの体調が絶不調だったらしく、テオ・マセロが編集した「ウィ・ウォント・マイルス」では感じないが、この元盤で聞くとトランペットの音に元気がないように思う。ツアー中、この日の体調が最悪で、未聴だが他会場の割と好調な海賊盤もあるようだ。公式録音がこの日だけだったのだから仕方ない。(hand)



STAR PEOPLE/Miles Davis

1982.8.11-1983.2.3

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★

Miles Davis(tp,kbd), Bill Evans(ss), John Scofield, Mike Stern(gr), Tom Barney, Marcus Miller(el-b), Al Foster(ds), Mino Cinelu(perc)

「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」から続くマーカス・ミラー&アル・フォスターのタイトなリズムのファンク盤

ジョンスコのギターが加わり、スターンとの2リードギターだがマイルスなので当然バトルはない。今もそうだが、ジョンスコの濁ったギターの音色はあまり好きになれない。マイルスのキーボードが曲によっては音色が70年代マイルスに逆行している感じもあるが、リズムは「ザ・マン・ウィズ…」と同じくミラー&フォスターによるタイトなファンクが中心だ。「ザ・マン」や「ウィ・ウォント」にあった歌心がやや減少したのが本作の一番の弱点だと私は思う。(hand)



DECOY/Miles Davis

1983.6.31-9.10

Columbia

おすすめ度

hand      ★★☆

Miles Davis(tp,kbd), Bill Evans, Branford Marsalis(ss), Robert Irving III(syn), John Scofield(gr), Darryl Jones(el-b), Al Foster(ds), Mino Cinelu(perc) 

マーカス・ミラーはいないがファンク度は増大した盤

ミラーはいないのにダリル・ジョーンズのファンクベースの強烈なタイトル曲①から始まる。ファンクベースとしては、多分、ミラー以上に派手なプレイをする人だと思う。ドラムがマシーン化したのか、メカニカルなエレクトロニックミュージックの雰囲気が漂う。人間くさい音楽としてのジャズの火が消えかかっているような印象を持つ。特に④は、マイルスがプロデュースしてロボットが演奏しているような気がした。トランペッターとしてのマイルスはいつも主役のはずなのに十分な活躍がない。ブランフォードのソロには多少血が通っていた。(hand)



YOU'RE UNDER ARREST/Miles Davis

1984.1.16-1985.1.14

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★

Miles Davis(tp,syn), Bob Berg(ss,ts), Robert Irving III(syn), John Scofield(gr), John McLaughlin(gr), Darryl Jones(el-b), Al Foster(ds), Vincent Wilburn(ds), Steve Thornton(perc)etc

ストリートを意識した盤ながら、ポップな2曲が印象に残る。

ストリートミュージックを取り入れたとのことだが、ストリートミュージックがどんなものかわからないので、この盤の魅力もなかなかなか理解できない。①ワンフォーンコール/ストリートシーンズはオール・ブルースを16ビートで演奏したような曲。ポップミュージックをカバーしたマイケル・ジャクソンの②ヒューマンネイチャーとシンディー・ローパーの⑧タイムアフタータイムは非常に親しみやすく、しかもマイルスミュージックになっているので、盤の中では浮いているが、私自身、過去からこれらだけは聞いていた。盤全体としても、ファンクが強烈だった前作に比べよりポップないわゆるフュージョンのサウンドに近づいていると思う。最初と最後の曲に効果音が入っているが、私には効果音入りの盤はこの盤に限らず繰り返し聞く気になれない原因になってしまう。(hand)



AURA/Miles Davis

1985.1.31-2.4

Columbia

おすすめ度

hand      ★★★

Miles Davis(tp), Palle Bolvig, Perry Knuden, Benny Rosenfeld, Idrees Sulieman, Jens Winther(tp,flh), Jens Engel, Ture Larsen, Vincent Nilsson(tb), Ole Kurt Jensen(btb), Axel Windfeld(btb,tu), Niels Eje(ob,ehr), Per Carsten, Bent Jaedig, Uffe Karskov, Flemming Madsen, Jesper Thilo(sax,fl), Lillian Thornquist(harp) Thomas Clausen, Kenneth Knudsen, Ole Koch-Hansen(keyb),John McLaughlin, Bjarne Roupe(gr), Niels-Henning Orsted Pedersen(b),Bo Stief(el-b), Lennart Gruvstedt (ds),  Vincent Wilburn(el-ds),Marilyn Mazur, Ethan Weisgaard(perc), Eva Hess Thaysen(voice),Palle Mikkelborg(arr,cond,tp,flh)

パレ・ミッケルボルグのエレクトリック・オーケストラとの共演盤

エレクトリック・マイルス好きにはすこぶる評判の悪い作品のようだが、そこまで悪いとは感じなかった。アコースティック時代のギル・エバンスとの共作、特に「スケッチ・オブ・スペイン」を私は評価しないが、エレクトリック期の「スケッチ・オブ」のような印象だ。パレ・ミッケルボルグのエレクトリックなオーケストラと共演したマイルスということで、この時期にしてはアコースティックなトランペットが聞けてよかった~的な感想を持った。「スケッチ」の場合、ギルに母家を取られた印象だったが、パレのほうがそこまで影響力がないだけましに思える。(hand)



TUTU/Miles Davis

1986.1-3

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★

Miles Davis(tp), Marcus Miller(el-b,etc),Adam Holzman, Bernard Wright(syn), George Duke(kbd), Michał Urbaniak(el-vln), Omar Hakim(ds,perc), Paulinho da Costa, Steve Reid(perc)etc

マーカス・ミラーが作った演奏をバックにマイルスが吹き込んだ盤

マーカス・ミラーが作ったカラオケをバックに1人で演奏したマイルス。それがジャズと言えるのか?インタープレイとは何なのだろう。高く評価されている盤のようだが、マイルスなら何でもあり的な発想だと思う。言わなければ、わからないのかもしれないが、それでも聞いていて、血が通っていない感触があった。「ツツ」マイナスワンを、誰でもマイルス!みたいなカラオケ盤で発売することも可能になってしまう。自由に演奏したマイルスらの音楽をテオ・マセロが編集したほうがずっとましだ。(hand)



SIESTA/Miles Davis & Marcus Miller

1987.1-2

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★

Miles Davis(tp), Marcus Miller(el-b,etc), James Walker(fl), John Scofield, Earl Klugh(ac-gr), Omar Hakim(ds)etc

マーカス・ミラーとの共同名義で作ったサントラ盤

効果音から始まる盤はあまり好みではないが、サントラなので仕方ないのだろう。マーカス・ミラーとの共作だが、「ツツ」よりも「オーラ」に雰囲気としては近いものを感じた。ミラーの多重吹き込みがかなりの多重で、エレクトリック・オーケストラのような印象と、スパニッシュな雰囲気からギルとの「スケッチ・オブ…」も思い起こされる。マイルスのトランペットはよく鳴っているが、私にはジャズとして楽しめない。(hand)



AMANDLA/Miles Davis

1987.6-1989.1

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★★☆

Miles Davis(tp), Marcus Miller(el-b,etc), Kenny Garrett(as,ss), Rick Margitza(ts), George Duke, Joey DeFrancesco(kbd), Joe Sample(p),  Michael Landau, Foley, Jean-Paul Bourelly, John Bigham, Billy Patterson(gr), Omar Hakim, Al Foster (ds),Don Alias,  Mino Cinelu, Paulinho da Costa, Bashiri Johnson(perc)etc

復活後のマイルスの集大成とされる盤

マイルスのこの時期の集大成とされている盤。確かに「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」に始まる復活後のベースとドラムを中心としたリズムに乗ってマイルスのメタリックなトランペット、サックス、ロック的なギター(フォーリーのベース)が聞かれる。しかも曲に親しみやすいメロディもあり、「ザ・マン…」の延長線上に戻ってきた安心感はある。ラスト盤とされる「ドゥー・バップ」が未完作なので、マイルスが自ら出したラスト正規盤とも言えるのがこの盤になる。そう思うと感慨深いが、マイルス自身はまだラストになるとは思ってはいなかっただろうし、まだまだ発展するつもりだったのだろう。また、全てではないかもしれないが、「ツツ」のようなカラオケ的な録音方式がとられているように聞こえるのは私には残念な点だ。(hand)



DINGO/Miles Davis & Michel Legrand

1990.3

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★★

Miles Davis(tp), Michel Legrand(keyb,arr,cond),etc

ルグランが音楽監督のサントラにトランぺッターとして出演した記録

サントラなので効果音やセリフがある。事実上のリーダーはルグランで、マイルスはメインソロイストだと思う。この時期の特徴であるエレクトリックなファンクは少なく、4ビートが占める割合が高いのと、マイルスのトランペットがアコースティックな50〜60年代の音色に近いのはうれしい。(hand)



DOO-BOP/Miles Davis

1991.1.21-1991.2

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★

Miles Davis(tp), Easy Mo Bee(kbd,samples), Deron Johnson(kbd)etc

マイルス亡きあとに発表されたヒップホップ盤

各種解説本によれば、マイルスはファンクからヒップホップに舵を切り、イージー・モービーなる人(プロデューサーらしい)と共同で新作を録音していたが、その途中で亡くなったため、残りはモービー氏がマイルスの音源を使って仕上げて発売した盤、とのことだ。そもそもヒップホップがどういう音楽か偏狭なジャズ好きなのでわからず、①ミステリーではファンクとの違いが判別せず、ファンクはベース主導がドラム主導に変わったのかな?くらいしか感じなかった。②ドゥーバップソングに至り、ああこの感じかと、少し理解した。最後まで聞いて、鑑賞音楽としてのジャズではなく、ダンスミュージックなのでないかと思った。最後までマイルスのトランペットの音やフレーズが魅力的なことは確かだ。(hand)



LIVE AT MONTREUX/Miles Davis & Quincy Jones

1991.7.8

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★

Miles Davis(tp),Quincy Jones(cond), Wallace Roney, Ack Van Rooyen(tp.flh), Kenny Garrett(as),

George Gruntz Concert Jazz Band & Gil Evans Orchestra

クインシーとともにモントルー・フェスに出場し亡くなったギルとの演奏を振り返ったマイルス

これがクインシーのこの時点での「私の考えるジャズ」なのであろうか?だとすればとても残念だ。ただ単に50年代末のギル・エバンスになりかわって、晩年のマイルスに当時の音楽を再演させただけにしか聞こえない。この時点のマイルスの音楽でもなく、全くいいと思えなかった。大レコード会社が世紀の大作のようにして売る盤とはそんなものなのだろう。(hand)



DEVIL OR ANGEL/Miles Davis

1991.7.10

Legendary Collection Series

ライブ・パリ・イン・1991

おすすめ度

hand      ★★★★

Miles Davis(tp,kbd), Bill Evans, Wayne Shorter(ss), Jackie McLean, Kenny Garrett(as), Steve Grossman(ts), Chick Corea, Deron Johnson, Herbie Hancock, Joe Zawinul(kbd), John McLaughlin, John Scofield(gr), Dave Holland(b), Foley(lead-b), Darryl Jones, Richard Patterson(el-b), Al Foster, Ricky Wellman(ds) 

死の2か月前に過去を振り返ったライブは感涙モノ

死の2カ月前の海賊録音2枚組(近年やや正規化された「ライブ・パリ・イン・1991」(Alive The Live)ともうひとつ「ザ・ロスト・コンサート」(Sleepy Night)が出ている。私は「デヴィル・オア・エンジェル」で聞いた。)。それまで過去を振り返る演奏をしなかったマイルスが死の直前になぜか行った振り返りライブ。マイルスは亡くなる2カ月前とは思えないくらい元気に「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」で復活したあのミュート (時にオープン)で吹いている。私が注目したのは古い年代のDisc2。2②アウトオブブルー と2③ディグは1951年のプレスティッジでの初期盤「ディグ」からで、このライブ中の最も古い曲。この録音でデビューしたマクリーンが参加している。今回はチック・コリアのエレピがバックだが、マクリーンが激しくソロを吹く。この2曲に限ってはマイルスの音色も昔風だ。マイルスとマクリーンの懐かしき共演はそれだけで感涙モノだ。この2曲のテナーがスティーブ・グロスマンではなくロリンズだったら最高だったと思う。2④ウォーターメロンマンをハンコックの参加でマイルスが演奏するというのも驚きだ。2⑧ジャンピエールにマクリーンの参加はびっくりしたが、ソロはなかった。(hand)



LIVE AROUND THE WORLD/Miles Davis

1988.8.7-1991.8.25⑪

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★★☆

⑪:Miles Davis(tp), Kenny Garrett(as), Foley(lead-b), Deron Johnson(keyb), Richard Patterson(el-b), Ricky Wellman(ds)

最期の録音を含む晩年4年間のベストアルバム的なライブ録音集

91年9月28日に亡くなったマイルス。1か月前の8月25日、ロスでの生涯最後のライブからの⑪ハンニバルも含め、この時期のライブのエッセンスを正規録音のいい音でまとめて聞ける晩年4年間のベスト盤的CD。既発曲も含んでいるようだが、カラオケ的なスタジオ録音よりも、ライブはやはりいい。⑪ハンニバルは「アマンドラ」に入っている曲。マイルスの鋭いミュートで始まり、途中オープンに変わる。亡くなる直前とは思えない音だ。ケニー・ギャレットのサックスも素晴らしい。(hand)



THE COMPLETE AT MONTREUX 1973-1991/Miles Davis

①②:1973.7.8

③④⑤⑥:1984.7.4

⑦⑧⑨⑩:1985.7.14

⑪⑫:1986.7.17

⑬⑭:1988.7.7

⑮⑯:1989.7.21

⑰⑱:1990.7.20

⑲:1991.7.8

⑳:1991.7.17(Nice)

Warner Bros.

おすすめ度

hand      ★★★☆

Miles Davis(tp,key), etc

モントルー・フェスへの出演記録の20枚組

モントルー・ジャズ・フェスティバルへの出演した19年にわたる記録の20枚組。73年が2枚で、復活後の80年代が18枚。Disc1&2は73年7月8日。モントルーの初出演が意外と遅い。73年は海賊録音はあるが、公式録音が少ない。調べてみると、72年の「イン・コンサート」と74年の「ダーク・メイガス」の間の空白地帯で、公式はコロンビアの「コンプリート・オン・ザ・コーナー」のDisc3だけで1,7,9月の録音、準公式が7月のこの盤、10月のコロンビアの「ブートレグ・シリーズVol.4アット・ニューポート」のDisc3くらいしか見つからなかった。ワウワウギターとワウワウトランペットのロック時代で、リーブマンのサックスがいい感じに吠えていた。Disc3,4,5&6は84年7月8日の昼と夜。公式盤では「ユア・アンダー・アレスト」の次に入る。ベースとギターとシンセのファンク時代に変わっている。テナーはボブ・バーグでマイケル・ブレッカー的なビバップを感じないソロであまり好みではない。マイケルもバーグもコルトレーン派とされているがコルトレーンにはバップを感じるが、この2人には感じない。Disc7,8,9&10は85年7月14日の昼と夜。公式盤では「オーラ」の次に入る。ドラムがアル・フォスターからビンセント・ウィルバーンに変わり70年代的な重さがなくなる。ジョンスコのギターの音色がライブのせいかあまり濁らず私好みの音になっている。バーグのテナーはやはりブレッカー的だ。Disc11&12は86年7月17日。公式盤では「ツツ」の次に入る。マイルスのトランペットがやたらとよく鳴っているので驚く。ハイノートもバッチリ出ている。ギターはロベン・フォードに変わり、音色が軽くなる。バーグは相変わらずだ。一部、デビット・サンボーンとジョージ・デュークがゲストで加わるが、マイルスのタイトでドライな環境の中で、泣きのサンボーンのような彼ららしさはあまり発揮できていないと思った。11⑥⑦がデューク、12④⑤⑥がサンボーンの参加した曲だ。Disc13&14は88年7月7日で87年は出演しなかったのだろう。公式盤では「アマンドラ」の直前にあたる。「アマンドラ」はスタジオで作り込まれたポップなファンクというイメージだが、ライブではスタジオ盤的な面も少しはあるが、よりハードでエキサイトした場面が多々見られる。ギターはいないが、ベースのフォーリーのギターそっくりのソロ(リード・ベースという楽器らしい。)がすごく、ディープ・パープル時代のリッチー・ブラックモア的なハード・ロックを感じる瞬間もある。サックスはケニー・ギャレットのアルトに変わっている。この手の音楽にはテナーよりもアルトのほうが合っていると思う。また、ソロ鍵盤楽器としてのシンセの役割が大きくなったと思う。ドラムもリック・ウェルマンに変わりファンク度が高まっている。マイルスのトランペットはよく鳴っている。マイルスの好不調は激しい曲よりも、ジャン・ピエールのテーマをミュートできちんと吹けるかどうかがわかりやすい。Disc15&16は89年7月21日。公式盤では前年に引き続き「アマンドラ」の時期にあたる。サックスがリック・マーギッツァのテナーに変わっている。キイボードにケイ赤城が加わっているということは日本人としては画期的だ。かつて70年代後半の引退期に菊地雅章がセッションに参加したが、マイルスのお気に召さなかったようで録音が残されていない。チャカ・カーンがヒューマンネイチャーで歌っている。ファンク盤としてはよくまとまっているのだと思う。Disc17&18は90年7月20日。公式盤では「ディンゴ」の次に入る。サックスはギャレットが戻っている。ファンクがよりポップに、シンプルで親しみやすい感じになってきたような気がする。中山康樹氏はケイ赤城のプレイがキレイ過ぎて問題だとしている。確かにチックやキースを聞いた耳で聞くとバッキングが効果音的でマイルスを刺激していないと思った。Disc19は91年7月8日、「マイルス&クインシー・アット・モントルー」と同内容なので、Boxに入れなくてよかったと思う。Disc20は9日後の91年7月17日でモントルーではなく仏ニースだ。ギャレット、フォーリー、デロン・ジョンソンが赤城から交代、リチャード・パターソン、ウェルマンというシンプルなセクステットが最後のバンドだ。ファンクでポップで元気なバンドだ。8月25日のロスがマイルスの生涯最後のライブ(1曲が「アラウンド・ザ・ワールド」に収録)で、9月28日には亡くなっている。体調は良くなかったようだが、演奏は最後まで元気があった。20枚を聞き通すのは大変かと思ったが、最後まで飽きることなく聞くことができた。重苦しい70年代の音源が少なく、ポップで聞きやすい復活後の80年代の音源がほとんどで、同じ曲でもメンバー変更により色合いが多少変わるので楽しめるのだと思う。(hand)



若い頃に、ロックやフュージョンを聞いていたので、何とかエレクトリック・マイルスを聞き通すことはできた。全部聞きを旨とするこの談義の会の趣旨からも全部を聞き、マイルスという大巨匠の音楽を俯瞰してみたかった。ただ、正直、エレクトリック期をアコースティック期のように馴染むことはできなかった。年齢的に特にロック的なハードなものがつらいということもある。ジャズ・ダンスの音楽もジャズであるなら、エレクトリック・マイルスも当然ジャズのカテに入るであろう。しかし、保守的なジャズファンである私にはどうしてもジャズとして認めることができない内容のものが多かった。音楽として嫌いではないが、今の自分が求めるジャズではないということだ。その結果、低い評価となっている盤が多い結果となっている。当然のことながら、あくまで個人の好みなので、余計なお世話ですが、お好きな方はどんどん聞いてください。(hand