卓越した技巧をもち、多くのミュージシャンからモダンジャズピアノとして突出した存在として語られたフィニアス・ニューボーンですが、残された作品はそれほど多くありません。このページでは、その前期と言える1962年までを紹介いたします。
Phineas Newborn Jr. フィニアス・ニューボーン・ジュニア CDレビュー 目次
1953年
Progressive Jazz Peacock
未CD化
オリジナルはSP盤
おすすめ度
hand ★★★
しげどん ★★★☆
Phineas Newborn Jr.(p),Calvin Newborn(g),Unknown(b),Unknown(ds)
ハウ・ハイ・ザ・ムーンとラウンド・ミッドナイトの片面1曲ずつの1953年録音のEPで、未CD化だ。初期のフィニアスは、弟のギタリスト、カルヴィンをフィーチャーしているので、ハウ・ハイのリード(メロディ)はギターが取っている。ミッドナイトのほうは、ピアノがリードしている。このEPは凄い、という前評判で聞いたのだが、凄いは凄いが特段凄くはない、というのが私の印象だ。確かに指は神業のように動いている。ただ、それがジャズのグルーヴを生み出しているかというと△だと思う。(hand)
技巧のすごさがデビュー作としてはインパクトがあり、フィニアス・ニューボーンの個性をよく表している演奏だ。それゆえに伝説的なデビュー盤と言われたのだと思う。必ずしもジャズとしては味わい深い演奏ではないと思うが、彼のピアニストの個性をよく表している象徴的な一枚なので、資料的な面白さは尽きない作品。ファンならぜひ聴くべき一枚だ。(しげどん)
1956年5月4日
Atlantic
おすすめ度
hand ★★★
しげどん ★★★★
ショーン ★★★★★
Phineas Newborn Jr.(p),Calvin Newborn(g),Oscar Pettiford(b),Kenny Clarke(ds)
小気味良いフィニアスのピアノテクニックを存分に楽しめるアルバムだ。all the things you are のソロからトリオプレイのインプロヴィゼーションに移行、そしてまたソロに戻る展開は実に心地良く痺れる。鍵盤の隅から隅まで全速で疾走する高速タッチは極めて正確で、聴く側の姿勢により、時にクラシックを聴いているかのような緊張感のある印象を与えつつ、また時には気軽に聴けるイージーリスニング的なリラックスした世界を感じることができる。初期のフィニアスの名盤。(ショーン)
オスカー・ペティフォード、ケニー・クラークという重量級の大物のサポートを得て吹き込んだ初リーダー作。アート・テイタムに比肩される技巧がちりばめられていて、デビューSPの延長線とも言える作品。技巧派としてのフィニアスは、病的なまでに繊細だが、その個性が充満したフィニアスらしいリーダーアルバムと言える。(しげどん)
改めてデビュー盤を聞いた印象は、指が動き過ぎる!ということだ。オスカー・ペティフォードのベースに、ケニー・クラークのドラムス、レーベルはアトランティックだが、録音はルディ・ヴァン・ゲルダーという恵まれたデビューだ。なのに、失意の一生だったとは、、フィニアスの場合、麻薬が原因でないとすれば、ピアノがうますぎたことくらいしか思い浮かばない。というのは、このデビュー盤、速弾きが必ずしもグルーヴを生み出していないのだ。アート・テイタム的な運指がビバップにならないということだと思う。世評では、名盤とされているが、私にはそう思えない。(hand)
Phineas Newborn Jr.(p),Calvin Newborn(g),George Joyner(b),Philly Joe Jones(ds)
RCAに移る。全10曲で、ソロ4曲、ジョージ・ジョイナー6曲とフィリー3曲。弟のカルヴィン(6曲)も兄と同じく指はよく動くが音色が細くて、あまり好感が持てない。前作よりも指に頼らない感じはいい。フィリーが入っているが、ホントにフィリー?というような大人しいプレイで、曲数もっと入って暴れて欲しかった。(hand)
やや生硬な感じはするが、フィニアスらしさは出た作品だと思う。弟カルビンのギターもあるが、カルテットではなくドラムレスのトリオ演奏で、フィニアスは前面に彼らしく出ている。フィリー・ジョー・ジョーンスは3曲しか参加していないし、ドラムは控えめだ。ソロの曲もあり、この時期のフィニアスの特徴はよくとらえられる作品だ。(しげどん)
Phineas Newborn Jr.(p) Dennis Farnon & his Orchestra
3作目はストリングス入りの完全なムード・ミュージックでジャズではない。ジェット・ストリームだ。パーカー・ウィズ・ストリングスとは訳が違う。フィニアスの意向があったとは思いたくない。(hand)
Ernie Royal(tp),Jimmy Cleveland(tb),Jerome Richardson(fl,ts),Sahib Shihab(as,bs、bcl),Phineas Newborn Jr.(p),Les Span(g),George Duvivier(b),Osie Jhonson(ds),Francisco Pozo(congas,bongos)
ムード・ミュージックの次は、管入りラテン。ハロルド・アーレンの曲をラテンで、という企画物。とはいえ、管入りコンボではなく、フィニアスのトリオにストリングスの代わりに管が入りました、という感じで、ラテン色も弱く、ガレスピー的なラテンを期待すると落胆する。⑤⑨などウィントン・ケリー的なジャマイカ風のノリもなくはないが僅かだ。錚々たる面々が入っているのに残念な内容。管とトリオが別に吹き込んだ?というくらいバンドとしてのグルーヴがない。レーベルのせいだと思いたい。(hand)
1"Savannah" – 4:10
2"Little Biscuit" – 3:03
3"Cocoanut Sweet" – 4:23
4"Push de Button" – 4:23
5"Napoleon" – 4:20
6"Hooray for de Yankee Dollar" – 3:31
7"For Every Fish" – 3:47
8"Take It Slow, Joe" – 4:20
9"Pity the Sunset" – 4:07
10"Pretty to Walk With" – 2:52
Phineas Newborn Jr.(p),Calvin Newborn(g),George Joyner(b),Denzil Best(ds)
やっとモダンジャズらしい盤の登場だ。①シュガー・レイ、多分、フィニアス作の最もカッコいい曲。当初、スタンダードのスイート・ロレインと誤表示されていた。フィニアスはホントにツイてない。この盤も②⑦はソロ、それ以外はトリオではなく弟カルヴィンのギター入りカルテット。それでも初のジャズらしい盤の登場を祝いたい!スタイルとしては、バドとピーターソンの中間的な感じに落ち着いてきたと思う。(hand)
代表曲であるシュガー・レイから始まる親しみやすい一枚。2曲のソロのほかは弟カルビンのギター入りのカルテットで、全体的にリラックスしてノリのいい演奏だ。あまり高く評価されていないのはギター入りカルテットだからかも知れない。フィニアスのピアノは普通に味わえるが、もっと前面に出てきてほしいという物足りなさはある。(しげどん)
1958年9月22日
Steeple Chase
hand ★★★★
しげどん ★★★
Phineas Newborn Jr.(p),Benny Bailey(tp),Oscar Pettiford(b),Rune Carlsson(ds)
ベニー・ベイリーを迎えたストックホルムでのジャムセッションのスティープル・チェイスからの発掘盤。ベースはオスカー・ペティフォード、ドラムは地元のルネ・カールソン。ジャムセッションの発掘盤で音は少し悪いが内容は素晴らしい。フィニアスは、テイタム臭が抜けて、モダンなピアニストに変貌している。(hand)
1958年という時期にしては録音は良くない。(鑑賞には十分耐えられるが) また選曲が古めかしいので盤全体の印象はビバップ期のような古いテイストを感じる。トリオでの演奏も一曲あるがベニー・ベイリー,オスカー・ペティフォードに焦点をあてたような曲もあり、必ずしもフィニアスに焦点があたっている曲ばかりではない。冒頭の「4月の思い出」はなんと17分超えの長尺で、フィニアスのソロも長いが、その結果ソロはやや冗漫に感じる。(しげどん)
※このライブは1958年の欧州ツアー途上のもので、ツアーコンサートの模様はCDでも入手可能。ズート・シムズ、リー・コニッツなどが参加 →Phineas Newborn サイド盤でレビュー →Red Garland項でもレビュー済
1958年9月22日
Steeple Chase
hand ★★★★☆
しげどん ★★★★
ショーン ★★★★☆
Phineas Newborn Jr.(p),Benny Bailey(tp),Oscar Pettiford(b),Rune Carlsson(ds)
Vol.1と同日のライブ。③マイ・シップは、イントロだけで、実際はシュガー・レイのトリオ演奏で途中ベニー・ベイリーがソロだけ入ってくる。これがまたカッコいい。2は1に比べてベイリーの活躍する場面が少なく、トリオを聞くにはこちらがいい。①Confirmationのテープが頭なしは残念(hand)
フィニアスのソロの密度の濃さではVol.1よりこちらのほうが聴きごたえがある。冒頭の「Confirmation」はいきなり途中から始まるし、「Walkin'」も同様にテーマなしでトランペットソロの途中からの音源なので、盤としてはいかにも非正規の発掘盤という感じだが、その2曲に関してもフィニアスのソロは多彩なテクニックを駆使した聴きごたえがあるものだ。さらに「MY Ship」~「Sugar Ray」のソロはVol.1,2通じて随一といえる密度の濃いソロだ。(しげどん)
フィニアスのピアノはライヴでも独創的だ。特にvierd bluesでのソロは秀逸で、聴いていてハッとさせられる。また続くmy shipの冒頭のソロも静かで心に沁みて素敵だ。アルバム全体としては、トランペットのBenny Baileyが、やや単調で面白味に欠ける。(ショーン)
Phineas Newborn Jr.(p),Paul Chambers(b),Roy Haynes(ds)
レギュラー・トリオだとは思われないこのトリオがなぜこんなに素晴らしいのか?前作までスタイルに迷いの感じられたフィニアスがリーダー役をロイに任せ、名手チェンバースを迎えたことで、ソロイストとして伸び伸びと弾いているのだと思う。名曲名演ばかりのまさに名盤だ。(hand)
技巧派的な演奏が特徴だったフィニアスが、情感たっぷりの味わいを表現するに至った至高の傑作。冒頭のレイ・ブライアントの曲はフィニアスにマッチしていないようで逆に彼から今までなかった味わいを引き出しているようだ。リーダーのロイ・ヘインズはドラマーとして引っ張りだこの名脇役。縁の下の力持ち的なすばらしくセンスのあるドラマーで、マックス・ローチのように自分が前に出るタイプなどとは対照的な存在。このアルバムでも、リーダーだが基本的には素晴らしいサポート役としてフィニアスを主役級に引き立てている。(しげどん)
トリオの演奏だが、フィニアスの演奏には幾層もの顔があり厚みを感じる。また一音一音に無駄が無く、チェンバースのベースとハモリながらシンクロすることで、曲の一体感が感じられる。solitaireのストーリー性のあるピアノはフィニアスらしい素晴らしい演奏だ。特にエンディングのソロはgood!(ショーン)
Phineas Newborn Jr.(p),Carlo Loffredo(b),Sergio Pissi(ds)
近年?発掘された1958年の海賊盤でジャケもダサイ。しかし、録音も良く内容も良い。58年は、ロイ・ヘインズがリーダーの傑作「ウィ・スリー」を録音した年で、フィニアスがモダンジャズに開眼した年だと思う。ハードバップ期の人気曲を熱演している。ソロ②③が6曲中2曲とやや多いのは残念な点だが、発掘されたことを喜びたい盤だ。(hand)
Phineas Newborn Jr.(p),John Simmons(b),Roy Haynes(ds)
私自身がゴリゴリした熱いジャズが好きなので、やや甘口に感じる盤(特にA面)。フィニアスという人はあまりリーダーシップを取らないのか取れないのか盤のカラーがレーベル次第のようなところがある。ルーレットはピアノトリオ盤は少なくアーチスト次第のところがあるのか結果的に曖昧なカラーになっていて、「ウィ・スリー」のロイ・ヘインズがドラムだが、大人しめだ。⑥ジャスト・イン・タイムからのアナログB面のほうが勢いがあって好感だ。(hand)
有名曲スタンダードのウタモノを揃えた選曲は売れ線狙いもあったかもしれない。よく知られた曲が並んでいて演奏は悪くないが一曲が短く物足りない。でも後半はフィニアスらしいテクニックあり、最後の自身オリジナルでは凄腕を披歴している。(しげどん)
Phineas Newborn Jr.(p),John Simmons(b),Roy Haynes(ds)
前作と同メンバー、同レーベル(ルーレット)での4か月後の録音。前作にはなかったプロデューサーの記載がある。①Aトレインから印象良くスタートする。ジョン・シモンズのベースもしっかりと録音されている。②ジーベイビーはブルージーだ。ピアノの前に女性が座るジャケでエレガントなムードミュージックを想像させるが、内容は純正ジャズだ。もっとハードボイルドなジャケにしてほしかった。(hand)
前作ピアノポートレイトの姉妹編のような作品で、選曲はスィング時代からの名曲スタンダード集。ソロは悪くなくフィニアスらしさも出ているがやはり一曲が短くやや物足りない。ベースやドラムのソロや小節交換などのジャズらしい盛り上げもないので、一般受けを狙った企画だと思われる。前作よりさらにその意図が強い。(しげどん)
Phineas Newborn Jr.(p),Paul Chambers,Sam Jones(b),Philly Joe Jones,Louis Hayes(ds)
「ウィ・スリー」はロイ・ヘインズのリーダー盤なので、フィニアスとしては初のクオリティの高いリーダー盤、しかも最高峰の盤だと思う。聞くまでは、チェンバース&フィリーの①〜④が、サム・ジョーンズ&ルイス・ヘイズの⑤〜⑧より良いのでは?と想像させるが、甲乙つけがたい素晴らしさ。特にワルツ曲⑦フォー・カールは、名曲名演だ。ベースのリロイ・ヴィネガーが早世したピアニストのカール・パーキンスのために作った曲だ。ただ、個人的な趣味としてはチェンバースとフィリーで全曲やったバージョンを聞いてみたかった。とはいえ、捨て曲なしの名盤だ。(hand)
指がよく動く超絶技巧の繊細なピアニストとしてだけ売り込もうとしたルーレットに対し、レスター・ケーニッヒは、粗削りなフィリー・ジョーと取り組ませるといる荒業に出て、骨太のジャズピアノを演出したのだ。これが大成功。ケーニッヒの天才的なプロデュース力がフィニアスの技巧や繊細さに加えてジャズのグルーブ感を引き出して素晴らしいピアノトリオの名盤になった。(しげどん)
フィニアスのピアノは、とても細やかでスピード感もありテクニック的にも素晴らしいが、メロディはやや軽く単調で残らない。ベースラインが弱いため、迫力も感じられない。(ショーン)
Phineas Newborn Jr.(p),Sam Jones(b),Louis Hayes(ds)
コンテンポラリーからのリーダー第2作。引き続き好調な内容だ。①〜⑤がリロイ・ヴィネガーとミルト・ターナー、⑥〜⑨が前作「ワールド」の後半と同日録音で残りテープなのか?内容はいいのに2分割され、いずれもB面という気の毒な録音だ。前作のチェンバース、フィリーが片面分しかないのが原因だと思う。フィリーはウィントン・ケリーの「ウィスパー・ノット」など寝坊・遅刻して半分しか参加しないことの常習なので怪しい(笑)。(hand)
前作と同じ水準の素晴らしい作品。さすがにケーニッヒはジャズ的な魅力というものがわかっている。ルーレットの2作とは対照的だ。選曲も前作と似た傾向のモダンジャズスタンダードとフィニアスのオリジナルなどジャズ感を表出するには適切な素材。A面のセットでは名手ヴィネガーのゴリゴリしたベースが気持ち良い。(しげどん)
一流ジャズアーティストの曲をカヴァー演奏し、どれもフィニアスらしくアレンジしており、なかなか面白いアルバムだ。器用なフィニアスらしさを感じることができるが、どれも原曲を超えることはなく、軽く感じてしまい残念ではある。(ショーン)
Phineas Newborn Jr. フィニアス・ニューボーン・ジュニア CDレビュー 目次