リーダー作 その2として、リバーサイド移籍後の1957年~1958年までの作品をご案内します。ミュージシャンを大事にするオリン・キープニューズ氏の理解のもと、もっとも充実し、モンクへの世評が高まってきた時期で、歴史的な名盤が目白押しです。
この時期のエポックはファイブ・スポットの長期出演です。
没収されていたキャバレーカード再交付によりライブ出演が可能になり、1957年よりコルトレーンを率いたレギュラーグループによるファイブ・スポットへの長期出演が実現します。しかしこのコルトレーンを率いていた57年時点でのファイブスポットのライブは残されておらず、同グループによるスタジオ盤や翌年一時的にコルトレーンが参加した音源が残っているだけですが、58年のジョニー・グリフィンに変わってからのライブはミステリオーソ、セロニアス・イン・アクションという二枚の正規盤になっており、いずれも名盤です。
セロニアス・モンク CDレビュー目次
①リーダー作 その1 初リーダー作からリバーサイド時代前半1957年まで
②リーダー作 その2 リバーサイ時代続き 1957年~1958年・・・このページ
④リーダー作 その4 後期 コロンビア移籍後 1962年~63年
1957年5月14-15日
おすすめ度
hand ★★★★
しげどん ★★★☆
ショーン ★★★
Bill Hardman(tp),Johnny Griffin(ts),Thelonious Monk(p),Spanky DeBrest(b),Art Blakey(ds)
ブレイキーは、演奏時のリーダーシップは発揮するが、音楽的なリーダーシップは音楽監督に任せるタイプなので、JMというよりも、ブリリアントコーナーズやモンクスミュージックに近い印象の盤。ラスト曲のブルース曲のみは、JMらしい曲にモンクが乗った雰囲気で面白い。(hand)
ブレイキーもグリフィンも良く知った仲だし完全にモンク作品に彼らが参加した形でJMらしさはない。モンクのリーダーセッションとして聴くべき作品だが、リバーサイド盤のような強烈な緊張感はない。(しげどん)
期待して聴いたが、正直さらりと聞き流してしまった。ホーンとピアノがバラバラとした印象で、モンクのユニークさ、ブレイキーのパワフルさのどちらも中途半端だ。(ショーン)
Ray Copeland(tp),Gigi Gryce(as),Coleman Hawkins,John Coltrane(ts),Thelonious Monk(p),Wilber Ware(b),Art Blakey(ds)
一般的には、「ブリリアント・コーナーズ」が評論家からは最高傑作とされるが、聴く気が起きるのはこちらのほうだ。世阿弥的な序破急と相通ずる世界かもしれない。真の最高傑作はこちらなのでは!?(hand)
破たんもありながらそれも作品の一部となっている不思議な魅力。冒頭の変な讃美歌も含め、アルバムとして奇妙な統一感がある。私の好みから言えば、完璧な「ブリリアント・コーナーズ」よりジャズらしくて好きだ。(しげどん)
モンクのピアノ、コールマン・ホーキンス、コルトレーンのテナーといったビッグネームに加えて、ドラムがブレイキーとなれば、駄作である訳がない。極めて安定した演奏で耳に心地良く、本物のJAZZにしっかりと浸れる秀作盤だ。(ショーン)
※破たんのある演奏として有名なのはWell you needn'tで、モンクが「コルトレーン!コルトレーン!」と連呼し、それに引きずられてブレイキーのドラムロールがずれてしまうところと、Epistrophyで、コールマン・ホーキンスがソロの出場所を二回間違って吹きはじめる音が聞こえるところ。二回目の出だしはブレイキーが間違ったまま続けているようにもとれます。
いずれにせよ、明らかに音に残っている破たんがありながら傑作だという稀なる作品です。
ホーキンスをミスキャストととらえる向きもありますが、モンクのディレクション下では、多くのミュージシャンが彼の個性に影響されてモンク化していきますが、さすがにホーキンスは、あくまでホーキンスらしくマイペースなところが逆に面白い聴きどころといえるのではないでしょうか。モンクは尊敬するホーキンスを生かすためのアレンジを徹夜で考えて、本番録音時には途中で寝てしまい、取り直しの時間がなくなったため、破たんのあるままにレコードにしたとも言われていますが、取り直しをしていたら、このような作品は生まれなかったと思います。
1957年8月12日,13日
Riverside
おすすめ度
hand ★★★
しげどん ★★★
ショーン ★★★
Gerry Mulligan(bs),Thelonious Monk(p),Wilbur Ware(b),Shadow Wilson(ds)
マリガンが悪戦苦闘したと書く評論家がいるが、マリガンはマイペースを保っていると思う。逆に、マリガンがモンクのトリオに共演して、モンクの曲を一緒に演奏しただけの気がする。演奏内容は悪くはないが、お互い曲をやるとか、演奏中も丁々発止のやりとりがあると、もっとすごい盤になったと思う。(hand)
全体にややまとまりに欠け、マリガンも迫力不足で、曲が締まらない。ここでのモンクは極めて大人しくマリガンの雰囲気に合わせている。モンクの良さは全くと言っていいほど感じられないアルバムだ。(ショーン)
マイルスとモンクはガチで勝負しケンカになったが、仲良しのマリガンには遠慮して、モンクの曲でもマリガンらしいソロを容認している。そのちぐはぐな感じがなんだか可笑しい。お互いが強い個性を持ったバンドリーダーなので、こういう形での共演しかなかったのだろう。(しげどん)
1958年7月9日、8月7日
Riverside
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん★★★★★
ショーン★★★★☆
おすすめ度
hand ★★★★☆
しげどん★★★★★
ショーン★★★★
Johnny Griffin(ts),Thelonious Monk(p),Ahmed Abdul Malik(b),Roy Haynes(ds)
モンク初のライブとなるファイブスポットでの歴史的な同一日録音の名盤。「イン・アクション」はクロージングテーマを両面に収録しライブらしい演出。「ミステリオーソ」の方が曲が個人的には好み。B面の最後までモンクの世界を堪能できる名盤。(しげどん)
両ライブは、甲乙つけがたいが、「ミステリオーソ」のインウォークドバドは、好きな曲で、とにかくかっこいい。CDおまけにラウンドミッドナイトが入っているのも強力な加点要素だ。「イン・アクション」は、ウエス・モンゴメリーの「フル・ハウス」を聞いて、グリフィンのファンになった私が、饒舌なグリフィンに再会できた傑作。(hand)
「イン・アクション」は、テナーソロの間もテーマを連想させるバックを絡めて弾くことで、曲に締まりと緊張感を与えるモンク。主役喰いモンクの得意技だ。バーらしいカラカラとしたグラスや氷の音と聴衆の声が重なり、より生き生きとしたライブ盤に仕上がっている。「ミステリオーソ」は、特にグリフィンのソロがストレートに素晴らしい。(ショーン)
1957年4月12日 Thelonious Monk :Functional
1957年6月26日 Ray Copeland(tp),Gigi Gryce(as),Coleman Hawkins(ts),John Coltrane(ts),Monk(p),Wilber Ware(b),Art Blakey(ds) :Epistrophy,Off Minor
1957年7月 Monk(p),Coltrane(ts),Ware(b),Shadow Wilson(ds) :Nutty,Ruby My Dear,Trinkle Tinkle
おすすめ度
hand ★★★
しげどん ★★★★☆
ジャズファンとして興味尽きないコルトレーン参加のファイブスポット出演は、契約の関係で録音されないままに終わった。しかしキープニューズ氏の執念で三曲だけ再会セッションの形でこのように聴けるのは幸せな事だ。モンクスミュージックやセロニアスヒムセルフの別テイクもそれなりに値打ちがあるが、やはりこの3曲のカルテット演奏がこの盤の値打ちだと思われる。ジョニー・グリフィン入りのカルテットも名盤なのだから、コルトレーンのほうも聴きたかった・・・というのが世界中のジャズファンのかなわぬ望みである。(しげどん)
※コルトレーン参加のレギュラーカルテットによるファイブスポット出演は当時大変な話題になったそうですが、正式なライブ録音はコルトレーンのプレスティジとの契約のため、実現しませんでした。
一説では、モンクはプレスティジを恨んでいたので、コルトレーンを借りる許可をとる為にボブ・ワインストックに頭を下げたくなかったからとも言われています。
キープニューズは、いつか発売できる日が来ると思い、録音だけでも残そうと、この3曲だけを録音したようです。そして、アルバム化に際しむりやり残り物の別テイクを集めて一枚の作品に仕上げました。
Functionalはセロニアスヒムセルフの別テイク、Epistrophy,Off Minorはモンクス・ミュージックの別テイクです。Epistrophyのオリジナルテイクは、ホーキンスのミス・トーンで知られていますが、ここで収録されているテイクはコルトレーンとコープランドのソロだけで、モンクやホーキンスのソロはなく、唐突にテーマに戻る変な演奏。実は未完成テイクにオリジナルテイクのテーマ部分を編集して完成品にしたそうです。
Thelonious Monk (p),John Coltrane, Coleman Hawkins (ts),Gigi Gryce (as),
Ray Copeland (tp),Wilbur Ware (b),Art Blakey, Shadow Wilson (ds)
「モンクス・ミュージック」と「セロニアス・モンク・ウィズ・ジョン・コルトレーン」の別テイクも全収録したCD2枚組。ウィズ・コルトレーンのソロ曲⑥ファンクショナルはカットされている。私自身は楽しめたが、マニア向けの盤だと思う。モンクス・ミュージックのジャケのモンクの乗っている台車のようなものは、モンクス・ミュージックの録音で疲れ果てたモンクを運ぶために使ったものらしい。(hand)
1957年11月29日
Blue Note
おすすめ度
hand ★★★★
しげどん ★★★★☆
Thelonious Monk(p), John Coltrane(ts), Ahmed Abdul-Malik(b),Shadow Wilson(ds)
モンクのプロフィールを読むと、バップの創造にはかかわったものの、才能があるのに特異な個性が受け入れられず、おまけにその後キャバレーカードも剥奪され、悲惨な初期を過ごしている。そんなモンクがリバーサイドに移った頃から着目され始め、なんとこの57年には音楽の殿堂カーネギーホールでカルテット演奏している。 この発掘盤で改めてその人気の急上昇に驚く。しかも、テナーは共演音源が少なくて伝説となっていたコルトレーンとのカルテットだ。マラソンセッション後、一旦解散(ただコルトレーンがクビになっていたらしい。)していた時期のコルトレーンの貴重なライブ音源。音も良く、急成長し、堂々とした57年のコルトレーンを聞くこともできる。(hand)
コルトレーン入りのレギュラーカルテットの音源は様々に発掘されたが、このカーネギーホールのライブは、その中でも録音状態も良く、現時点ではもっとも鑑賞に適した音源かと思われる。Nutty,Blue Monkなどファイブスポットのジョニー・グリフィン入りのカルテットでの同曲と比較をすると、その違いが興味深い。モンクワールドに協調的なグリフィンに対して、対等に対峙しモンクワールドを切り崩さんとばかりに自己主張するコルトレーンの存在感が際立っている。コンサートステージでのパフォーマンスだと考えると、ライブスポットではもっとすごいドラマがあったと想像したくなる演奏だ。(しげどん)
1958年9月11日
Gambit
おすすめ度
hand ★★★☆
しげどん ★★★☆
Thelonious Monk(p), John Coltrane(ts), Ahmed Abdul-Malik(b),Shadow Wilson(ds)
57年のコルトレーンから58年にはグリフィンにテナーが変わり、ファイブ・スポットに出演していたモンク。グリフィンが都合がつかない日に、コルトレーンがトラ(代役)で出た日の記録。この録音は、コルトレーンの当時の奥さん、有名なネイマがプライベート録音したものらしい。なので、録音月日が「イン・アクション」や「ミステリオーソ」よりも後になっている。悪い内容ではないが、発見されるまでは超伝説のライブだっただけに、初めて聞いたときは、それほどでもない感を持った。ただ、コルトレーン在団時のファイブ・スポットの記録は未だに発見されておらず、カーネギーホールの記録のみが発見されているのが現状。それでもこの録音やカーネギーがあるのは嬉しいことだと思う。(hand)
コルトレーンが参加した57年時点でのファイブ・スポットの演奏は完全に幻のままだが、このような形で録音があることは貴重だ。ミステリオーソなどで聴かれるジョニー・グリフィンの熱情的なソロと比較すると、コルトレーンの音符過多的なソロの特徴が出ている。でもあくまでもモンクの音楽なので、グリフィンとコルトレーンの優劣はつけられない好みの問題だ。録音は良くないが、聴いているうちにライブスポットの客席で採録した感じの臨場感に慣れてきて意外と苦にならず聴けた。(しげどん)
Thelonious Monk(p)、Charlie Rouse(ts)、Ahmed Abdul-Malik(b)、Roy Haynes(ds)
1958年、ラウズもモンクとファイブ・スポットに出ていたことが分かった発掘盤。この盤は録音年月日は不明だが、コルトレーンがグリフィンのトラ(代役)で出た日の録音があるように、ラウズもトラで出たのかもしれない。グリフィンやコルトレーンほど能弁ではないが、ラウズにはラウズの良さがある。リズム隊は、アーマッド・アブダルマリクのベースとロイ・ヘインズのドラムス。モンク関連本の中にソニー・ロリンズ入りの58年9月のファイブ・スポットの写真があり、ロリンズもトラをやっていたようだ。音源も残っていて欲しい。(hand)
1957-1964
Thelonious
おすすめ度
hand ★★★☆
Disc 1:Thelonious Monk(p),
Disc 2:Thelonious Monk(p),Charlie Rouse(ts),John Ore,Butch Warren(b),Frankie Dunlop,Ben Riley(ds)
モンク財団のレーベルが発行した家族持ちテープのCD化。2枚組で、トランスフォーマーの意味は、アイム・ゲッティング・センチメンタル・オーバー・ユーがどのようにトランスフォームするかを延々と2枚組で聞かされるマニア向け盤。ただし、苦痛ではないのが不思議なところ。1枚目は、57年から家で録りためたものらしく、録音月日は不明。2枚目になると、ラウズ入りカルテットでの同曲のライブ録音が聞かれ、悪くない。(hand)
1958,59,62
Gambit
おすすめ度
hand ★★★☆
Thelonious Monk(p),Charlie Rouse(ts:5-9),Henry Grimes(b:1-4),Sam Jones(b:5-9),Roy Haynes(ds:1-4),Art Taylor(ds:5-9),The Duke Ellington Orchestra(Bonus Tracks:10-12)
58、59、62年とニューポート・ジャズフェス、3回の記録。①〜④がヘンリー・グライムス、ロイ・ヘインズとのトリオ、⑤〜⑨がラウズ入りカルテット、⑩〜⑫がエリントン・オーケストラとの共演。この時期の発掘盤としては音はまずまずだ。トリオは、映画「真夏の夜のジャズ」時の演奏。ラウズ入りのカルテットは初期の録音になるが、旧知の間柄らしく、初めから馴染んでいると思う。エリントンは、リバーサイドとコロンビアの狭間の録音で、モンクが尊敬するエリントンがオーケストラでモンク曲2曲を一緒に演奏するというモンクにとっては夢心地の演奏だったと思う。この演奏だけ少し音が悪い。(hand)